私のような者にもかつては師匠と呼び慕った方がいた。その我が師I先生から譜面の書き方を教わった事は殆どなかった。じゃあ何を教わったのかって?作曲家という変てこな存在になるための、あるいは作曲家として存在し続けるためのさまざまな方法、そいつを耳…
天気も良いしってんでとりあえず布団でも干してみた。一年ほどぐずぐずと作曲に打ち込んでさ、ああ、今はともかく片付けたい。何を片付けるのかって?うん、自分でもよくわからないさ、ただともかくきちんとあるべきものをあるべきところに収めたいんだ。三…
久々に県境を越えて祭り見物に行ってきた。何より祭りを見るために県境を越えようなどという気持ちになった自分に驚いている。うん、体の内側からじわりじわりと何かが湧き出しているここ数か月だ。そうさ、人はそれを回復と言うんだ。 足腰もよろついている…
別に若返りたいなんて思う訳じゃない。もう一度若い時に戻って人生をやり直してもいいぞ、と誰かに言われたとしても、いやいや、もげてしまうぐらいにぶんぶんと首を左右に振り回すだろう。ようやくゴールが見えてきたんだ。もう一度人生とかいうやつを繰り…
人生とかいうやつの最後の最後に思い切り燃え尽きようと、「あしたのジョー」とかいう漫画の主人公みたいに真っ白になってしまいたいと、うん、ともかく作曲に打ち込んだ一年余りだった。極力言葉っていうものと離れ、あらゆる事柄を音の仕組みの中で考え、…
長らく私の仕事を手伝ってくれていたT君が、ふらりと我が家に現れたのは先月末の事だったか。彼はお土産だと笑いながら、二本のヴィデオテープが入ったコンビニ袋をぶら下げていた。「あんたは物持ちが悪いから、当然こんなものは持っていないだろう」と言い…
昨夜は厚かましくも知人の家へとお邪魔し、そこでだらだらと酒を飲んだ挙句、だらしなく寝込んでしまった。ふと目を覚ますと、部屋の中は薄暗く、棚の上に置かれたCDプレイヤーの液晶版が3:55という数字を示している。急いで身支度を整え、知人宅を後に…
ふとネットニュースの週間天気予報に目が留まり、そいつを開いてみた。雨を表す傘のマーク、そのマークの横に稲妻を表しているのだろう、ピカチュウの尻尾みたいな黄色い斜めの太線が書き足してある。雷雨って訳だね。そんな日が四日ほど続き、五日目には、…
滴るような鉛色の大気に包まれた日々が再び始まった。世間では梅雨の戻りと言っているらしい。そうさ、まだまだ今年の梅雨は終わった訳じゃあなかった。うん、良いね、何だかほっとするね。いやいや、別に梅雨が好きってな訳じゃあない。でもさ梅雨の終わり…
私が耳にした限りでは、今年初めて蝉が鳴いたのは七月の一日だ。七月一日?うん、この蝉ってのも何だか律義な奴らだねえと心の中で笑いながら、さて、私もそろそろ目を覚まさなくちゃあいけないね、などとぼんやりと考えた。 いつも使っているスタジオが、伝…
酒を飲み続けても酔わない、道を歩いていても気持ちが落ち着かない、新聞を読もうとしても文字がまったく頭に入ってこない。それはもちろん今が作曲の中休みの状態だからさ。本当は中休みって事で、すっかり気持ちを入れ換えたいんだが、ふと我に帰ると、頭…
昨日は仕事を終えても興奮が静まらず、布団に潜り込んだものの目が冴えるばかりで、そのままふらふらと近所のスーパーに出掛け、おっ、なかなか良い鯛があるじゃあないかと、早速買って帰ったそいつを三枚に下ろし、冷蔵庫に残っていた酒で空っぽの胃袋に流…
梅雨に晴れ間があるように、作曲って行為にも切れ間があるんだ。といっても四つの楽章のうちの一つがようやく終わったっていう話なんだが。でも、書き出し、いつも苦労するのはそこだ。そいつが決まってしまえば後は速い。何とか六月の前半にすべてを書き終…
ここ一週間ぐらいだっただろうか、ほとんど機能しなかった目が、昨日の午後から少しずつ働き出してきた。上手く言えないが、強いて何かに喩えてみるなら、凍え、縮み上がっていた臓器が、次第に熱を取り戻してきたってな具合かな。 ここ数日間、いつもよりも…
スタジオが閉鎖されてから再び強いられた自粛生活。うん、幼稚園に入る前の生活。そんな生活だが、それでも次第に生活のリズムってもんが出来てきた。日々の中心にどしんと鎮座するそいつは、もちろん新曲を書く事さ。大まかに輪郭を作るために粘土を捏ねる…
ここ数日、起き抜けに胸がどきどきするのは、別に綺麗なお姉さんに強い思いを寄せているからではない。心臓、くたばりかけた私の左胸の肉塊、そいつが働きたくないとごねているんだ。季節の変わり目にはよくある事さ。一昨日から、毎日使っているスタジオが…
最近、ロールプレイングゲームなるものが世に中にある事を知った。大辞林によると自分自身が主人公となってゲームの中の世界に入り込んでゆくものらしい。元々、ゲームというものにはほとんど興味がない。あれこれと教えてくれている知人の話を、虚ろな目を…
毎日使っているスタジオがとうとう閉鎖されてしまう事になった。とりあえず五月一杯閉鎖の予定だが、伝染病の広がり方によっては十分に延長の可能性あり、という事でいささかしょげている。去年の今頃は丁度三ヶ月に渡ってスタジオを使う事ができず、鯵の干…
人にはそれぞれ、秘かに噛み締める自分なりの喜びがあるのだろうが、今日の私にとってのそれ、それはトイレが普通に流れる喜びだ。それにしてもあの詰まり解消用の大きな吸盤、うん、まったく大したもんだと感心している。そういえばその吸盤って他に何かい…
のっけから尾籠な話で申し訳ないが、私はここ数日、これまでの人生で最も人の排泄物を目にした。もちろん直に見たって訳じゃあない。映像で。Youtubeとかいうやつを利用して。といっても私にそういう趣味はない。必要に応じて。うん、実はトイレ詰まりの解消…
「ちまき食べ食べふにゃららら」などと、うろ覚えの歌詞をごまかしながら口ずさみ、ちまきをもそもそと口に運ぶ。昨日、近所にお住まいのお姉さん、和菓子屋勤めのМさんからちまきをいただいたんだ。端午の節句の限定メニューってやつかな。美味しいんだけど…
まったくもってリハビリの真っ最中ってな感じだ。えええっと・・・、ほらほら、キーボードを打つ手も何だか頼りないね。酔っ払いの足取りみたい、私の指はキーの上をひたすらさ迷い、挙句の果てにようやく触ったキーが思ってもみなかった文字を生み出す。 い…
「寝るより楽はなかりけり」などという狂歌を詠んだのは、江戸時代後期に活躍した文人大田南畝だが、うううん、本当かねえ?寝るのが楽?この数か月、これまでの人生で一度もなかったほどよく寝たが、といっても実際には布団の中で虚ろに過ごしていたという…
放っておくとゆらゆらと弥次郎兵衛のように揺れ続ける頭を、とうとう枕の上にどさりと投げ出したままの日々を送った。ああ、惰眠を貪るとはまさにこの事だ。いや、この冬はいろいろあったんだ。私は避難したのさ。夢の中という安全な場所にさ。そんな私に、…
ようやく布団から這い出してみた。うん、起きなきゃあならない。ここ数日、眩暈が酷くて布団を棲家としていた。ああ、布団の中ってのは天国だね。確か吉行淳之介の小説じゃなかったっけ?病気の少年が布団の中で自分の事を布団の国の王様だと空想するのは。…
あれ?もしかして今月の石原まりさんとのインスタライブは延期かな?うん、もちろんそれもありだろう。彼女はオーケストラの団員だ。十二月の音楽家ってのはともかく忙しいんだ。私も昔はそんな経験があるが、よーいどんで十二月に入ると頭の中に入るだけ音…
ここ一週間ほど、ふらふらとさ迷っていた。魔道冥府を?いやいや、まさか、そんな恐ろしいところをさ迷うのは子連れ狼こと拝一刀ぐらいさ。兵六爺こと私がさ迷うのは、せいぜいまだ完成しない妄想のような自分の作品の中さ。書いて、寝て、起きて、また書い…
七月から月に一度の割合で、石原まりさんのインスタグラムにお邪魔してお喋りを楽しんでいる。うん、お喋りは確かに楽しいが、とりあえず後二回、来年の一月でお終いという事にしてもらった。やはり体が持たない気がするんだ。自分がそうなってみて初めて分…
ぽっかりと時間が空いた朝だった。さて何をして過ごそうか?そうだ、数日前に知人がDVDを貸してくれたんだ。そいつを見なくちゃね。ええと、ベートーヴェンの九番目の交響曲、うん、何だか長そうだね。しかも難しそうだね。よしってんで濃いめの珈琲を淹れ、…
Мちゃんからの電話で目が覚めた。少し笑いを含んだような声で「もしもし、昨日見たよ」と言う。「見たよ」というのは、ああ、多分、昨日インスタグラムで私が垂れ流したお話の事だな。うん、ここ数か月、九州交響楽団のチェリスト、石原まりさんのインスタグ…