通信24-40 給付金で買った楽器を披露する

 Мちゃんからの電話で目が覚めた。少し笑いを含んだような声で「もしもし、昨日見たよ」と言う。「見たよ」というのは、ああ、多分、昨日インスタグラムで私が垂れ流したお話の事だな。うん、ここ数か月、九州交響楽団チェリスト、石原まりさんのインスタグラムにお邪魔して、そこで音楽の歴史について色々と、まるで見て来たかのように喋りまくっているんだ。

 

 Мちゃんというのは私の作曲の元弟子。小学校の頃、数年間作曲を一緒に勉強したんだが、音楽大学に進学するには東京に住んだ方が色々と便利だってんで、都内の親戚の家に居候しながら音楽専門の中学だか高校だかに通っている可愛らしいお嬢さんさ。おっと、お嬢さんなどと書くとМちゃん、何故か怒り出すんだ。

 

 「見たよ」という言葉が纏っている薄い笑いは、ああ、多分、サキソフォーンの演奏についての感想の意味を含んでいるんだろうね。実はインスタグラムでお話をした後、いつも簡単な演奏をする事にしている。長々と詰まらないお話を聴いて下さった方々に対するささやかなお礼みたいなものさ。グリコのキャラメルを買うともれなくおまけがついてくる。うん、おまけみたいなものさ、私の演奏は。これまでは石原まりさんにチェロを弾いていただき、私が軽くピアノで伴奏をつけるという感じでお茶を濁していた。うん、ちょいと濁り過ぎ。おいおい、茶柱すら見えないぜ。でも今回は何故かいちびった私が、ソプラノサキソフォーンという飛び道具を持ち出すという暴挙に出てしまったんだ。

 

 伝染病に対する給付金、そいつをいただいた私は、どういう訳だか、ああ、それは七月の事だった、そう、多分真夏の熱気に頭をやられたのさ、碌に吹けもしないソプラノサキソフォーンを買ってしまったんだ。おいおい、何をやっているんだ。そんなもの買うぐらいなら米を、野菜を、味噌醤油を買えよという、もう一人の自分の突っ込みに耐えながら、買ったものは仕方ないじゃんなどと嘯き、果てさて、買ったものの人様の前でご披露する機会もないんじゃないかと思った私は、石原まりさんに頼み込んでインスタグラムの中で演奏させてもらう事にしたんだ。

 

 そんなみっともない私を揶揄うようにМちゃんは笑う。いや、実はМちゃんは少し怒っていた。ああ、そうか、ちょいと前にメールを貰っていたんだ。このブログに私の大学受験の頃の様子を書いてくれと。自分もそろそろ受験生としての心構えを作らないといけないからと。私の受験生時代?うん、もちろん反面教師にするためさ。そうだ、そういえばちょいと中断していたこのブログ、Мちゃんのリクエストにこっそりと応えるべく、自分の大学受験の頃に内容を寄せていたんだったっけ。でもそこで昔の知人の訃報を受け、何でもかんでも忘れ去ってしまったんだ。ごめんごめんその内に書くからね。

 

 そういえばこの夏から秋に掛けて、未知の方々から数件、私が使っているアルトサキソフォーンのマウスピースについてご質問をいただいた。ちょいとおかしな音が出るんで、不思議に思われたんだろうね。ちなみに私自身は、このルネサンス時代の楽器風の素朴な音が出るマウスピースを気に入ってる。このマウスピースについては以前別のブログに覚書を残しているので、そちらを参照いただければ幸いだ。数年前に書いたものだが、基本的にその時の考えは今も変わっていない。

 

                                                                                                      2020. 11. 23.