今春は一年振りに昔の弟子と顔を合わせ、ついでに演奏を動画に収めていただいた。ずっと以前、その弟子にセバスチャン・バッハの音楽の構造を説明するためにチェロの組曲を二本のサキソフォーンで演奏できるように編曲したのだが、いかんせん相手は受験生で…
アルメニアの民族楽器ドゥドゥク、そいつに魅かれてもう十年以上になる。きっかけはトゥバの歌姫、サインホ・ナムチラクのCDさ。サインホの歌声に風のように寄り添う不思議な音色、うん、まさに度肝を抜かれたってのはこの事だ。 半年ほど前にある民族楽器を…
ここ数年にしては珍しく、随分とばたばたと駆けまわる日々を送った。体力的にはしんどかったが、だからといって楽しくなかったという訳じゃあない。外に出て、未知の人たちと出会うとそれなりに元気がでるもんだと妙に感心したりもしている。 そういえばこの…
久しぶりに人様の前でピアノを弾く事になった。二三週間ほど前の事だったろうか、踊りのお姉さんから突然お電話をいただいた。そのお姉さん、随分と前に私のコンサートだか、ライブだかを聴きに来て下さった縁で、何度か仕事を御一緒させていただいている有…
ガルシア=マルケスという作家がとても好きで、小説を読むだけでは飽き足らず、彼の本が原作になっている映画も極力観るようにしている。ガルシア=マルケスの作品の中でも最も好きなもののひとつに「愛その他の悪霊について」というものがあるんだが、誰か…
とうとう怖れていた日がやってきた。もう十年以上もの間、狭いベランダで汚れ物と真摯の向き合い続けてきてくれた洗濯機が壊れてしまったんだ。おそよ一時間弱で終わるはずの洗濯がいつまでたっても終わらない。ベランダに意識を向けると、確かに働いてはい…
新しい眼鏡がもたらしたもの、そいつは色彩さ。よし、それならば久々に色を堪能しようと、押し入れに眠らせたままだったDVDを取り出してみた。長い間、観たいと思い続けていた映画、そいつは「宮廷画家ゴヤは見た」という、なんだかちょっと前に流行った日本…
粛々と、淡々と、静かに、我をいうものを一切出さず、作曲にも演奏にも取り組みたいと思っている。自分ごときが何をせずとも、音楽は、たとえそれが小さな歌であっても、そこにあるだけで一つの世界を余すことなく表現しているものだと、ようやく分かってき…
昨夜は旧友と飲んだ。合うのは十数年振り、十数年前に一度顔を見たその前にあったのはさらに二十数年前だろうか。七夕様もびっくりするぐらいの御無沙汰ぶりだ。それでも一旦顔を合わせると、何の遠慮もなく、酒をぐいぐい飲み、好き勝手な事を喋りまくる、…
新しい眼鏡がくすみきった私の日常に明るい光と、微かなこめかみの痛みを運んできた。うん、新しいが故につるの部分の締め込みがきついんだ。ともあれ短くはあるが、言葉と戯れる時間が戻って来た事は嬉しい。 ここ数日は、誰もが知っているような歌をサキソ…
最近はあまり会う機会のなくなった、古くから付き合いのある友人とばったりあった。随分しょんぼりしているけど、どうしたのかな?話を聞くと、失明の危機に瀕しているそうで、毎回治療の度に一本五万円もする、しかもむちゃくちゃに痛い注射を打たれるそう…
youtu.be まとまった原稿料が入ったらやろうと思っていた事ランキングの一位、それは眼鏡を新しく作り直す事だった。そして先日、有難く原稿料を受け取った。さあってんで、早起きして向かったのは近所の眼科さ。市内でも評判の眼科で、ともかく待ち時間が長…
少女漫画の事をあれこれ考えているうちにふと思い出したことがある。まだ十代の私は、上京し椎名町というところに四畳半のアパートを借りて住んでいた。池袋で夜中まで酒を飲んでも、ふらふらと歩いているといつの間にか帰り着いているという都心に近い街に…
私にとっての少女漫画の伝道者である妹ともすっかり会う機会がなくなり、少女漫画からも遠ざかってしまった私ではあったが、ある時知り合った少女漫画マニアのT君に色々と教えてもらった。 T君によると太刀掛秀子先生の「花ぶらんこ揺れて」という作品は日本…
私が子供の頃、少女漫画の多くは男の作家が描いていたように思う。今となってはあまりにも有名な作家たち、ランダムに名前を挙げるならば手塚治虫先生、赤塚不二夫先生、石ノ森章太郎先生、楳図かずお先生・・・、ともかく漫画の書き手というのは男性で、彼…
国中が浮かれまくる年末年始をほぼ布団の中で過ごした。さあ、いよいよ布団の国の王様になりつつあるって訳だ。そんな年明け、近所にお住いのお姉さんが漫画を持ってきて下さった。お見舞い?うん、何でもいいさ。それにしても病人に漫画、なかなかの組み合…
おお、今朝は久々に頭痛がないじゃないか。いったい何日ぶりだろう。うん、頭痛といっても正確には眼痛なんだけどね。ここ最近は眼痛のやつが進化を遂げたらしく、毎日飽きもせずやってくるんだ。といってもこちらも黙って手を拱いているってな訳じゃない。…
これを腐れ縁というのではないだろうかと、忘れた頃にふとどこかでばったり出会う旧友のT君、彼から昨夜、久々に電話を貰った。昨日の私の駄文を読んだのだが、ごみ箱に棲むホームレスのくだりは、紀田順一朗「東京の下層社会」(ちくま学芸文庫)に引用され…
呆け防止のためにこのブログを続けているんだが、特に書きたい事なんてないんだよねえ、と知人に打ち明けると、「それなら時事系のネタを書けばいいじゃないですか」と言われた。えっ、爺系?・・・うん、時事系ね。爺系のネタなら常に書いている。 ふうん、…
数日前にべとべとなご飯を炊いた。いや、もちろん好き好んでそんなご飯を炊いた訳じゃあない。ともかくじっとりと湿気を含んだご飯が炊飯器の内釜に、これでもかというほどこびりついていた。更にそのまま保温にせず、夕方すっかり冷めきったご飯を茶碗に装…
部屋の中が少し肌寒く感じた。ふと思いつきエアコンの暖房を入れてみる。あれ、思ったより随分と暖かいじゃないか。私は生まれてこのかた、エアコンの暖房なんてほとんど効かないようなものだと思い込んでいた。 七月の終わりだった。今年はひどい猛暑で、連…
今回はGの事を書くつもりなどなかった。かつて住んだ、自分が最も好きな街で起こった様々な事、うん、楽しかった事も、頭に来る事も、何でもいいさと、もかくそんな事を書きたかったんだ。でも、どうしてもこの時期の事を書くと、ずるずると引き寄せられるよ…
そしてそれから、それから?うん、それからすっかり浮かれ切った私たちは石油ストーブの天板の上に直接網を置き、その網の上に銀杏をぶちまけた。香ばしく焼けた銀杏の実に塩をまぶし、そいつをばくばくと食べながら他愛ない話をだらだらと続け、馬鹿みたい…
家主とのすったもんだを繰り返しながらも、いつの間にかそれが当たり前の事となりつつあった。うん、大した事じゃない。トムとジェリーが毎日毎日飽きもせず喧嘩を繰り返しているようなものさ。でもその年の秋が深まった頃、家主の姿を見掛ける事がなくなっ…
別に酒飲みだけじゃなかった。この街に住む変な奴は。時折見掛けた黒装束に身を包んだ、ううううん、そうだねえ、紳士然としていると言ってもいいのだろうか、ともかく不思議な行動をとる中年男がいたんだ。黒装束といっても、私みたいによれよれの黒いTシャ…
さあこの街での酒飲みの総大将といえば、うん、そう呼ばれるに相応しい奴がいたんだ。名前は知らない。ある日、近くの商店街を歩いていると叫び声が聞こえた。ん?と思い声の方を見遣ると、あれ、人が道に寝ているじゃないか。一杯飲み屋の前だ。飲み屋の前…
それにしても酒飲みってのは酔っ払うと何だって外に出たがるんだろうね。やはり独りで飲むのは寂しいのかねえ。私が棲みついた路地に棲む酔っ払いたちも例外じゃなかった。もちろん寒い時はそうじゃない、でもちらほらと暖かくなると、ほら、よろよろとおぼ…
確かに家主は一人暮らしの矍鑠とした老婦人だった。しかし思い出してみると、入居の御挨拶をしたのは家主の娘さんらしき人、家主である老婦人は娘さんの背後でにこにこと穏かな笑みを浮かべながら我々の言葉に相槌を打つだけだった。その家主と初めて言葉を…
街中に変な髪型をした大男たちが溢れていると思ったら、そうか、もう九州場所の季節なんだ。秋らしい澄んだ青空と、乾いた空気に誘われて、昔住んだ街の方へと足を伸ばしてみた。今はその面影を失いつつあるが、かつては古い学生街だったその街へ潜り込んだ…
ここ一年ほど一緒に音楽理論の勉強をしているTさん、勉強の一区切りとして数か月掛けて取り組んでいた編曲が完成した。ならばそいつを実際に音にしてみよう。ついでに録音して記録に残しておこうってんで、昨日は昼中スタジオにこもってせっせせっせと事に励…