通信29-16 コンサートの始まり

歴史上最も古くから認められた観光都市ヴェネツィア、そこに坐するサン・マルコ聖堂、そこから新しい音楽の在り方が始まった。東ローマ帝国内の自治領であるヴェネツィアは自治領であるがゆえに、カトリック教会から自由な立場を取り続ける事ができた。 ヴェ…

通信29-15 商品としてのオペラの誕生

大胆、自由にしてどこまでも誠実、モンテヴェルディはまさにそういう作曲家だった。そしてそういう作曲家の出現がオペラという新しい様式を発展させたんだ。多分声高に理念ばかりを掲げる扇動家の連中にまかせていては、新しい音楽はできなかっただろうね。…

通信29-14 オペラの誕生

フランスの貴族が「ルネーッサンス」のなどと叫びながら、ワイングラスをぶつけ合ったのかどうかは知らないが、ルネサンス、ともかくその運動はイタリアより起こった。ちなみにルネサンスという言葉はフランス語だが、それは十九世紀のフランスの歴史家ミシ…

通信29-13 ○○家の馬鹿娘ですら初見で弾けた

ルネサンスの三大発明というと羅針盤、火薬、活版印刷だっけ?コロンブスが新大陸を発見し、コペルニクスは地動説を唱え、うん、新時代の到来さ。さあ、こうなると音楽もすっかり新しい時代の波に呑み込まれてゆく。例えば十数年ほど前にいろいろと話題にな…

通信29-12 とうとう聴き手が現れる

朝からぼんやりした頭でネットニュースを眺めていた。宝塚歌劇団の練習場では私語も、笑顔も禁止・・・。ん?この文言、どこかで見た事あるな。そうだ、中世後期、十二世紀から十三世紀にかけてのキリスト教会では私語も、それどこらか笑う事すらも禁じられ…

通信29-11 ああ 頭の中がコントラバスの音で一杯だ

頭の中で重低音がうねり続けている。年末からコントラバスのためのソナタにどっぷりと漬かり込んでいたんだ。街中で流れるジングルベルジングルベル鈴が鳴るとかいう浮かれ囃子も、私の頭の中ではたちまちコントラバスの音に変換された。コントラバス、いさ…

通信29-10 パイの中には二十六人の楽師たちが

1400年代の丁度半ば、ブルゴーニュで歴史に残る大宴会が催される。「雉の誓い」という名で知られるこの大宴会、しかしこの大宴会こそが見事に歴史の転換を教えてくれる。1453年、トルコによってコンスタンチノープルが陥とされる。つまり東ローマ帝国が滅び…

通信29-9 祭りに浮かれる阿保どもの一人になりたい

もう十年以上も前の事だと思う。渋谷のBunkamuraで開催されたブリューゲル展、そこで見た「阿保の祭り」、うん、私はその前から一歩も動く事ができなかった。そこに描かれた阿保共、こいつらは一体何をしているんだ。輪になって踊る者、とんぼ返りを打つ者、…

通信29-8 農村には農村の神がいた

久々にパンクしてしまった。ちょいと作曲に入れ込み過ぎたんだ。これを書き上げるまでは死ぬ訳にはいかない、うん、そんな新作のプランがこの私の中にもあるんだ。一週間ほど下書きに没頭していると、あれれ、随分と目が翳むじゃないか。おいおい、眩暈も酷…

通信29-7 人の眠りを妨げる楽器、それはもちろんシンバルさ

社会にじわじわと進出し始めた楽師たち。その彼らが主にどんな仕事に就いたかというと、やはり最初に思い浮かぶのは宮廷でのお勤めだろうね。楽師からもう少し範囲を広げるとジョングルールなどと呼ばれる芸人もいて、新しい音楽の出現に大きな役割を果たし…

通信29-6 音楽家たちの活躍が始まりそうな気がする

西暦1000年頃の事だ。農村部が深刻な人口増加に見舞われた。当時の農業は世襲制だ。長男以外は不要って訳さ。このまま農村に留まっていては埒が明かないってんで、次男坊、三男坊・・・は挙って都市部へと流れ込む。都会で一旗揚げようってなもんかね。そん…

通信29-5 鳩に歌を教わった教皇

西暦800年、カール大帝は教皇レオ三世よりローマ皇帝としての帝冠を受ける。ここからすべては始まった。さあ、初めての宗教国家の誕生だ。といってもカロリング朝はいわば他民族国家、それをどのように統一してゆくのか。そこでカール大帝は聖歌の一本化を目…

通信29-4 アウグスティヌスはミサの音楽を聴いて涙を流したとさ

キリスト教が中世の音楽に及ぼした影響は限りなく深い。いや、というよりも中世の音楽史を語る事は、ほぼ教会の音楽の歴史を語る事になる。もちろんヨーロッパ全体を大きく見回すと、すべての音楽の中で教会の音楽が占める割合など僅かなものだろう。しかし…

通信29-3 古代ギリシャの祭りは想像がつかないくらいぶっ飛んだものだったらしい

唐突な話をすると、中世の理論家ヨハンネス・ド・グロケオが1300年頃、「これからは耳に聴こえる音楽のみを音楽とする」という、現代の我々からするといささか奇異に思える宣言をする。えっ?てえことは、それまでは耳に聴こえない音楽も存在したって事かい…

通信29-2 牛の腸と亀の甲羅から生まれた美しい響き

ヘルメス、そう、知性を掌る神であるヘルメス。ある時ヘルメスはふと考えた。長さの違う複数の弦を同時に鳴らすと一体どうなるのだろう?思い立ったら吉日とばかりに、彼は親友である亀をばっさりと斬り捨てる。ヘルメスには仲良しの亀がいて、いつも一緒に…

通信29-1 西洋音楽の歴史について色々と書いてみようかな

先週の事だ。私が住む福岡県の高校の音楽先生方にお集まりいただき、その前で講演というか、講義というが、うん、ともかくお話をしたんだ。西洋音楽の歴史ってやつについて。二時間で西洋音楽二千五百年の歴史をお話しようという無謀な試み。ああ、一体どれ…

告知 その2

福岡県立美術館喫茶室ライブ 解題 水の流浪第三集より 水に溶けるタンゴの調べ (太田・哲也) 風に震えるタンゴの調べが夕闇に染まり、やがて流れる水に溶けてゆく。果たして書きたかったものはタンゴの調べか、あるいはすべてを呑み込んでしまう水の不思議…

告知

渦巻くような熱気に翻弄される日々が続いていますが、皆さまお元気でお過ごしの事と存じ上げます。もう人様の前で演奏する事はないと思っていたのですが、ひょんな事から最後に再び情けない姿を晒す事と相成ってしまいました。 水の流浪第三集より~水に溶け…

通信28-20 なんて一週間だ

酷い一週間だった。これほど体調が悪い一週間を過ごしたのは初めてじゃないだろうか。とうとう一度も楽器に触る事も出来なかった。いや、一音符、文字の一個すら書かなかった。酷いストレスからだろうか、馬鹿みたいに感情は揺れ続け、正気を失う事もたびた…

通信28-19 一人じゃないって、素敵な事ね

いつの間にか一月以上も文章を書く事をさぼっていた。その間、何をしていたかというと、うん、汗だくになって譜面を書いていたんだ。サキソフォーン一本で演奏できるような小品を書くために、そのネタ、そいつを必死になって搔き集め、そのネタに肉を付け、…

通信28-18 日記を書くように小品を書き続けたい

ここ数か月、サキソフォーン一本のために編曲を続けている。気持ちは静かだ。多分これまでに一度も味わった事のない静かな心持で毎日を過ごしている。去年の今頃はどうしていただろうか。そうだ、まだ形もよく見えていないピアノ四重奏の芽を腹の中に腫瘍の…

ここ数日、大いに自分を悩ませてくれた低体温からようやく抜け出した。数日前に突然震えるほどの寒さの中に放り込まれたんだ。風邪?いや、そんな感じではない。血液の巡りが悪く、体温がずんずん下がる、うん、強いて言えばそんな感じかね。もちろん思い当…

通信28-16 かつての弟子の成長を喜ぶ

今春は一年振りに昔の弟子と顔を合わせ、ついでに演奏を動画に収めていただいた。ずっと以前、その弟子にセバスチャン・バッハの音楽の構造を説明するためにチェロの組曲を二本のサキソフォーンで演奏できるように編曲したのだが、いかんせん相手は受験生で…

通信28-15 ばったもんのドゥドゥクという楽器に振り回される

アルメニアの民族楽器ドゥドゥク、そいつに魅かれてもう十年以上になる。きっかけはトゥバの歌姫、サインホ・ナムチラクのCDさ。サインホの歌声に風のように寄り添う不思議な音色、うん、まさに度肝を抜かれたってのはこの事だ。 半年ほど前にある民族楽器を…

通信28-14 犬のようにばたばたと走り回った日々

ここ数年にしては珍しく、随分とばたばたと駆けまわる日々を送った。体力的にはしんどかったが、だからといって楽しくなかったという訳じゃあない。外に出て、未知の人たちと出会うとそれなりに元気がでるもんだと妙に感心したりもしている。 そういえばこの…

通信28-13 久々に人前でピアノを弾く事に

久しぶりに人様の前でピアノを弾く事になった。二三週間ほど前の事だったろうか、踊りのお姉さんから突然お電話をいただいた。そのお姉さん、随分と前に私のコンサートだか、ライブだかを聴きに来て下さった縁で、何度か仕事を御一緒させていただいている有…

通信28-12 「愛その他の悪霊について」について

ガルシア=マルケスという作家がとても好きで、小説を読むだけでは飽き足らず、彼の本が原作になっている映画も極力観るようにしている。ガルシア=マルケスの作品の中でも最も好きなもののひとつに「愛その他の悪霊について」というものがあるんだが、誰か…

通信28-11 ベランダに起きた異変

とうとう怖れていた日がやってきた。もう十年以上もの間、狭いベランダで汚れ物と真摯の向き合い続けてきてくれた洗濯機が壊れてしまったんだ。おそよ一時間弱で終わるはずの洗濯がいつまでたっても終わらない。ベランダに意識を向けると、確かに働いてはい…

通信28-10 年寄りはゴヤを見た

新しい眼鏡がもたらしたもの、そいつは色彩さ。よし、それならば久々に色を堪能しようと、押し入れに眠らせたままだったDVDを取り出してみた。長い間、観たいと思い続けていた映画、そいつは「宮廷画家ゴヤは見た」という、なんだかちょっと前に流行った日本…

通信28-9 ウルトラマンのように

粛々と、淡々と、静かに、我をいうものを一切出さず、作曲にも演奏にも取り組みたいと思っている。自分ごときが何をせずとも、音楽は、たとえそれが小さな歌であっても、そこにあるだけで一つの世界を余すことなく表現しているものだと、ようやく分かってき…