通信29-1 西洋音楽の歴史について色々と書いてみようかな

 先週の事だ。私が住む福岡県の高校の音楽先生方にお集まりいただき、その前で講演というか、講義というが、うん、ともかくお話をしたんだ。西洋音楽の歴史ってやつについて。二時間で西洋音楽二千五百年の歴史をお話しようという無謀な試み。ああ、一体どれだけ早口で捲し立てればいいんだよ。舌の数だって一枚じゃ足りないぜ。二枚、三枚・・・ともかくそいつをプロペラのようにフル回転、しどろもどろになりながらもどうにか二時間、話し続けたんだ。

 

 いざ話してみると、自分の記憶が虫食いだらけの古文書のようにあれこれ抜け落ちているのがわかった。うん、肝心の人名がなかなか出てこないんだ。その代わり出てくるものと言えば冷や汗ばかり。ああ、これではあまりも情けないってんで、そうだね、冥途の土産にとでも言おうか、忘備録代わり、自身にとって是非とも憶えておかなければならない事だけでも、このブログに書きつけてみようかなどと思ったんだ。

 

 そうだね、まずは古代ギリシャ、すべてはここからさ。それにしても音楽史ってやつ、そいつはいささか特殊なんだ。なんといっても正確な資料がない。もちろん音源はないし、古代から中世にいたっては音をある程度正確につたえる譜面ってやつすらもほぼ存在しない。暗闇でひたすら藻掻いているような自分に果たして一条の光は差し込んでくるのであろうか。

 

 うん、古代ギリシャの音楽について、まずは神話から入ってみようか。ああ、ほかのジャンルからは到底考えられないね。日本史の話を始めるにあたって、空から神武天皇が降りていらっしゃって・・・、などと話し始めたところで冷ややかな笑いを買うだけだろうさ。しかしギリシャ神話における音楽の話。ここには古代ギリシャに生きた人々の音楽観が上手く表されている。格好つけて言うならば、そこに真実はないが真理はあるってなもんさ。

 

 ギリシャ神話によれば、最古の楽器はアウロスという二枚リードの管楽器という事になる。オーボエの前身みたいなもんだね。実際には紀元前二千年ほど前に作られた弦楽器がメソポタミアで発見されたらしいが、その事については、とりあえず今は擱いておく。という訳でまずはアウロスの話から。

 

 ゴーゴン三姉妹の末娘のメデューサ、彼女は人間たちに対する深い恨みから、出会う男たちを次々に石に変えてしまう。この恐ろしい妖怪、髪の毛は蛇、うへえ、ともかく彼女は自分自身を見た相手を即座に石に変えてしまうという恐ろしい技を持っていた。だが、このメデューサ、いささか暴れ過ぎたんだ。なにしろ会うやつ会うやつ、片っ端から石に変えてしまった。という訳でその悪辣っぷりが美の女神アテナの目に留まり成敗されてしまう。アテナの命を受けた英雄ペルシウスによって首を落とされたメデューサ、だがその首を落とされた死体を見て力の限りに泣き叫ぶ二人の姉。その激しい慟哭に胸を打たれたアテナイの女神が、その慟哭ぶりを何とか形に留める事はできないかと思い、作らせた楽器がこのアウロスって訳さ。直に息を音に帰る管楽器、これこそ感情ってものをダイレクトに表現する事ができる道具という訳だ。さて、それに対して知性の楽器、それは何か?うん、そいつは弦楽器さ。という訳で次回は弦楽器のお話を。

 

                        2023 11 26