2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

通信21-43 夢か現か昔の知人と再会する

この前の週末の事だ。一月ほど抜いていた酒を飲んだ。うん、知人に誘われたんだ。酒を飲んだのが一月振りなら、その知人と飲んだのはおよそ十年振りだ。連絡を貰った時はいささか面食らった。まさかこの、どこまでも影の薄い爺の事を思い出すやつがこの世の…

通信21-42 富嶽三十六景と鳥の歌

「しまった」と何度も握った拳で自分の膝を叩きながら顔を歪め、後悔に首を振り続けている。自分でも何故だか分からないが、ふと思いついて「富嶽三十六景」の画集を買ったんだ。これまで北斎といえば肉筆、そう思い上がった事を嘯きながら、この画集を顧み…

通信21-41 フランスへと飛び立つうぐいすよ

窓から外を眺めると、ああ、久々に朝霧が立っているじゃないか。窓を開け、素足でベランダに降り立ち、朝の冷え込みを直に肌で感じる。生まれ育った街ならば、うん、そこは坂の街で、高低差が激しく、複雑に入り組んだ地形をしていて、その地形が作る谷に沿…

通信21-40 お母様の坊やに何をあげよう?

あれ?何か変だぞと、ここ数日頭を捻りながら過ごした。いつにもまして頭がぼんやりしている。ついでに体が重い。何故って、うん、実は心拍数が50を切っていたんだ。徐脈とかいうやつさ。それで慌てて病院に駆け込んだ。最近病院を変わったばかり、その開…

通信21-39 盆踊りのように

詩人寺山修司に「若者よ、書を捨て街に出よう」というタイトルの著書があるが、うん、「街に出よう」、良い言葉だねえ。若者の心をぐりぐりと刺激するような言葉さ。「ピーギャン」という隠語がある。あまり好意的な意味では使われない。音楽家たちの間で使…

通信21-38 アメリア姫の遺言

ガキの頃に観た「禁じられた遊び」という映画、そいつが何十年も経った今でも鮮明に記憶に残っている。南欧の強い光、その光がスクリーンから直接に溢れ出してくるような作品だった。その映像に寄り添うように流れていたギターの音、南欧の古曲からセバスチ…

通信21-37 自分の無知を大いに恥じる

朝っぱらから頭を抱えてうんうんと唸っている。何故?ああ、そいつは恥ずかしさからさ。自分の不明を、無知を、ともかくその存在そのものを大いに恥じているんだ。長年取り組んできたカタロニア古曲、その中にどうしても意味が分からない言葉があった。知人…

通信21-36 最後のお勤めの準備をする

ここ数日、肩にぶら下げた荷物に嫌な重みを感じていた。思えば三年前の秋、最初に感じた体の違和感、それは妙に荷物が重いという事だった。それから秋、冬と通して肩に下げた鞄は次第に重みを増し、とうとう歩けなくなった私は病院に駆け込み、いや、駆ける…