通信28-12 「愛その他の悪霊について」について

 ガルシア=マルケスという作家がとても好きで、小説を読むだけでは飽き足らず、彼の本が原作になっている映画も極力観るようにしている。ガルシア=マルケスの作品の中でも最も好きなもののひとつに「愛その他の悪霊について」というものがあるんだが、誰か映像にしてくれないだろうかずっと思い続けていた。もちろん知らぬは自分ばかりで、実は十年以上も前にコロンビアで映画化されていて、日本語字幕付きのDVDが存在していたんだ。おお、ならば我が最愛のヒロイン、シェルバ・マリアは一体どのような姿で描かれているのだろうかと、胸のときめきを押さえつつディスクを入手した。

 

 もちろん小説の映像は全く別物だ。それがわからないほど私も初心ではない。うん、それはそれ、これはこれって訳さ。そう自分を慰めながら充分にその美しい映像を楽しんだ。ガルシア=マルケスの小説のその上澄みだけをそのまま絵に、音にした、そんな映画だった。南国の豊かな土壌からぐいぐいと養分を吸い上げながら生きているような登場人物の力強さは微塵も感じられない。ただ、そこに流れる映像は、音は、ひたすら私の目を、耳を、慰め続けるんだ。

 

 ああ、それはそれ、これはこれ、それでいいじゃないか。ただ、改めてそこからすっぽりと抜け落ちているガルシア=マルケスの豊饒さを、そこにないからこそ改めて痛感した。そう、改めて思ったのは言語表現だけが実現する事ができる豊饒ってやつがまだまだ無限に存在するという事が改めて分かったのさ。文学の可能性は無限って訳さ。うん、何だかさ、嬉しい笑いが込み上げてくるじゃあないか。

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