通信28-10 年寄りはゴヤを見た

 新しい眼鏡がもたらしたもの、そいつは色彩さ。よし、それならば久々に色を堪能しようと、押し入れに眠らせたままだったDVDを取り出してみた。長い間、観たいと思い続けていた映画、そいつは「宮廷画家ゴヤは見た」という、なんだかちょっと前に流行った日本のドラマを思い出させるようなタイトルの作品さ。まあ、実際にはゴヤの目を通して見た世界を描いた映画なので、間違ったタイトルって訳じゃあないか。

 

 まさにジェットコースターに乗っているかのような急激な展開。ぐるぐると上下がひっくり返り続ける。それもそうさ。舞台は1700年終盤から1800年初頭のスペイン、うん、ヨーロッパがナポレオンによって掻き回された時代を描いているんだ。作品の柱には異端審問、ちょいと可愛らしいお姉さんが絡むとたちまち権力者のSMごっこと化すあの悪習。その中世の異端審問を近世に甦らせた主人公の末路が描かれている。

 

 ああ、この書き方は身も蓋もないね。でも十分に楽しめた映画だった。などと思いながら少し長めにエンドロールを見始めると、おお、余計なものは一切ない、そこには次々と現れたのはゴヤの作品の数々だ。うん、今観終えたばかりの映画、そのすべてがいっぺんに吹っ飛んでしまった。強烈なゴヤの存在に吹き飛ばされたんだ。こんな映画を観てにやにやしている暇なんかないぜ。結局、頭に残ったのはゴヤの作品だけだ。晩年の「黒い絵」という連作、そいつにこれでもかと打ちのめされたんだ。

 

 それにしても、久々に戻って来た色彩を楽しもうと観た映画で、自分の打ちのめしたのが「黒い絵」だとは。ああ、でも強烈な陽光のしたで、目にするあらゆる風景が黒と白のモノクロームに収斂されるエクスタシー。うん、そいつを久しぶりに思い出したんだ。