通信28-11 ベランダに起きた異変

 とうとう怖れていた日がやってきた。もう十年以上もの間、狭いベランダで汚れ物と真摯の向き合い続けてきてくれた洗濯機が壊れてしまったんだ。おそよ一時間弱で終わるはずの洗濯がいつまでたっても終わらない。ベランダに意識を向けると、確かに働いてはいるようだった。一体何をまごまごしているのかと、意地悪な上司のように間近でその仕事ぶりを監視するためベランダに出てみた。

 

 ああ、この間抜けなやつめ。現在の動作を示すランプは「脱水」で点滅しているのだが、こいつがやっている事は、ただ新たに水をためてはそれを排出、その行為を繰り返すだけ。うん、分からないでもないよ。脱水はパワーが必要だからね。いつもその遠心力でツイストでも踊るみたいに大袈裟な音を立てて揺れ動いていた。うん、辛い事を少しでも先延ばしにするために、まるで水遊びをするみたい、ぴちゃぴちゃと水を溜めては流すという無意味なを繰り返していたんだね。

 

 実は私もそうなんだ。嫌な事を少しでも先延ばしにする。ペットが飼い主に似るように、道具も持ち主に似るって訳だね、などと悠長な事は言っていられない。ほら、スタジオが開く時間が迫っているぞ。どうするんだ?

 

 よしってんで、ずぶ濡れの洗濯物をひとつずつ取り出して絞る事にした。ああ、なんだか懐かしい感覚だね。でも最近は上腕筋の衰えをひしひしと感じていたんだ。丁度いい運動さ。ちょいと手間はかかるが、そうだね、これから陽射しが強くなる季節だし。まあ、このままでもいいか。とりあえず今年の夏を乗り切れればいいと思っているんだ。