通信25-2 いよいよ佳境に入ってまいりました

 あれ?もしかして今月の石原まりさんとのインスタライブは延期かな?うん、もちろんそれもありだろう。彼女はオーケストラの団員だ。十二月の音楽家ってのはともかく忙しいんだ。私も昔はそんな経験があるが、よーいどんで十二月に入ると頭の中に入るだけ音符を詰め込んで、ぬらりひょんとかいう妖怪さながら、大きな頭をゆらゆら揺らし、ばたばたと街を走り回っているうちに、ほうら、明けましておめでとう、でも頭に中にはまだまだジングルベルと鈴が鳴り響き続け、あれ?このクリスマスツリー何だか形が変じゃあないかい?いやいや、そいつは門松だぜってな状態さ。

 

 ともあれ七月から始めたこのインスタライブ、音楽の歴史についてあれやこれやと好き放題に話す試み、古代ギリシャに始まり、中世、ルネサンスバロックを経て、ようやく十九世紀に。いよいよ佳境に入ってまいりましたってなところさ。でも実際、私の中ではすでに峠は越えている。先月のバロックの回、作品が商品となり自由競争の中に投げ込まれる、連作さながらに続けているこれらの会話の中で取り上げたかったのはまさにそこさ。

 

 さあ、いよいよその競争が加速度的に激しさを増してゆく十九世紀。多くの歴史上のアイドルが次々と現れた世紀。ベートーヴェンシューマンショパンブラームスワーグナー・・・、いちいち挙げていったら切りがないね。これらの天才たちのちょいとしたゴシップ、裏話を芸能記者さながらに並べていけばあっという間に時間切れってな事になるんだが、もちろんそんな事はしない。別に特定の作曲家のファンの集いを開催する積りもないし、視聴して下さる方々だって、こんな汚い老人の口からだらだらと漏れてくる涎のような噂話を聴くよりも、図書館にでもしけ込んで好きな作曲家の伝記本を読み漁った方がどんなに楽しいか分からない。

 

 実は石原まりさんにとっては、いささか期待外れかもしれないが、今回は特に個々の作曲家について冷たく距離を置いて話す事にしている。自分が惚れこんだ作曲家について、あれこれと集めたエピソードを披露してゆくのはもちろん楽しい事だが、今回は一貫して「歴史の流れの中で、そのように書かされた作曲家たち」という視点で話している。時代に対するアンテナの立て方で、幸にも不幸にも転ぶ曖昧な存在としての創作者の姿を描く事ができればとは思っているんだ。

 

 窓の外に目をやると、あれ?さっきまでの曇天がいつの間にか晴れ間を覗かせているじゃあないか。うん、出掛けなきゃあね。そろそろ新しい季節にも体が馴染んできたところさ。まだまだ冬支度だって出来てはいない。ともかく体を動かすんだ。そうしない事には何も始まらない。

 

                                                                                                           2020. 12. 5.