2019-01-01から1年間の記事一覧

通信20-40 ちょっとだけヤンキー映画を観た

最近はいろいろな物を、インターネットを通じて買う事を覚えたんだが、あれ?いつの間にかよく分からない何とやらの会員になっているじゃないか。ろくに見えない目と、ろくに考えない頭と、ろくに動かない手、そんなものに引き摺られて生きていると、ついろ…

通信20-39 もう一度視力が戻ってきたら

人は老化を病気と誤解するらしい。まあ、しょうがないよね。何てったって老化、それはその人にとって初めての体験だからね。私だってもちろんそうさ。今、初心者の老人として、初々しく日々を過ごしているんだ。うん、体は日々衰える。いてててて・・・とい…

通信20-38 オーケストラという夢の音楽装置

東京を離れる一年ほど前からどういう訳だか、うん、本当にどういう訳なんだろうね、私は指揮の勉強を初めた。指揮、あのオーケストラだとか合唱団の前で、手足をばたばた、時には口を金魚みたいにぱくぱくと動かしながらやる、いささか滑稽なあれさ。 そうだ…

通信20-37 昔、渇水があった

降水確率百パーセントの予想、窓の外には垂れ下がるような雲が。ああ、でも期待していたほどじゃなかった。全然足りない。ほんのお湿りってやつさ。一体いつになったら梅雨入りするんだろうね。 福岡の市民は、ある程度年齢のいった者なら、水に対してトラウ…

通信20-36 喋るように書いているようにみせかけたい

頭からほかほかと湯気が立ち昇っている。うん、作曲疲れってやつさ。慣れないパソコンを使ってあれれこれれと頭を捻り、それでも昨日から二日かけて、ようやくピアノの小品を三つ拵えた。 ああ、目がしょぼしょぼ、手もしょぼしょぼ、椅子の上に折りたたんだ…

通信20-35 ようやく小さいやつをひとつ

わが心の弟子、今は東京の偉い先生の元に里子に出しているってな感じのМちゃん。ここ一月ほど、彼女からの問い掛けに答えるつもりで、しばし自分の修業時代について書いてみた。縁側で孫娘に、西瓜でも齧りながら、のんびりとよもやま話でも垂れ流す感じでさ…

通信20-34 恋愛体質者の悲しさ

われわれは腹を減らした餓鬼みたいにSが運んでくる仕事を待っていた。ほい、肉片でも放るようにSがわれわれの前に仕事を投げてくると、われわれは一斉にそいつに貪りつき、うん、仕事に飢えていたんだ、あっという間に平らげた。Sは本当に頼りになる、確かに…

通信20-33 雨中散策

昨日は久々に、朝っぱらから街をうろうろと歩き回った。それがいつもの朝なら、布団から這い出すとすぐにブログを書いて、それから顔を洗い、簡単に朝食を済ませるとスタジオに潜り込むんだが、あいにくスタジオを押さえる事ができなかったんだ。いつもなら…

通信20-32 電話という機器が珍しかった頃

二十歳そこそこだった。次第に金を稼ぐ事を覚えた私は、ともかくありついた仕事なら何でもこなそうと、意地汚い目つきであたりをきょろきょろと見回していた。仕事にありつくのに何より必要なもの、それはもちろん連絡を受け取るシステムさ。私だけじゃない…

通信20-31 徹夜が続くと耳から血が出る事があるよ

I先生の元に通い出して数か月ほど経つと、書いたものに対してアドバイスをいただく代わりに、ぽつぽつとささやかなアルバイトを回して貰えるようになった。アルバイトの内容は主に写譜、作曲家が書いた総譜、いろんな楽器のための音符がごた混ぜに書き込まれ…

通信20-30 どうしてわたしは爪を噛むの?

久々に県境を超えた。昔の弟子が、地元に戻ってピアノの教師をしているんだが、今、三人の音大受験生を抱えているらしい。それで大学に入るまでに準備しておいた方がいいと思われる音楽理論について、その子らに話をしてくれってんで、うん、何だか楽しそう…

通信20-29 もちろんシーボルトに会った事はない

一年ほど映画の仕事に携わったおかげで、大いに音が荒れた。「名前は長いが、効き目は早い」。うん、そいつはコルゲンとかいう薬の広告コピーだが、私の場合、「仕事は早いが、中身は薄い」ってな感じさ。映画の仕事を始めるまでは、紙に書き得るすべての音…

通信20-28 巨匠のお仕事

東京に出て、まず自分を打ちのめしたもの、それは私の師匠筋に当たる方々の圧倒的な存在感だった。その強烈な存在感、それがどこから来るのか、うん、その当時のクラシックの世界に住む音楽家たちは、ともかく家柄が良かったんだ。私のような田舎の貧乏人の…

通信20-27 初めての作曲のお仕事

そういえば個人情報とやらが云々されだしたのは、いつ頃だろうか。私が若い頃は、有名人の住所や電話番号を手に入れるのは割と容易かった。高校を卒業して上京し、大学に見切りをつけ、いや、それ以前に大学からはとっくに見切りをつけられ、さあ、これから…

通信20-26 明星 平凡 芸能雑誌の愉しみ

喫茶店で原稿の下書きを取っていると、ふと流れてきたBGMに耳が留まった。ちょいと古臭い旋律、数十年も前によく耳にしたような旋律、その旋律が途切れ、「僕は嫌だ」という台詞が何度も入る。その台詞が耳にこびり付いたまま帰宅した私は、早速「僕は嫌だ」…

通信20-25 パソコンのモニターを運ぶ

梅雨のような暗い空が広がる朝に目を醒ました。二時間ほど地下のスタジオで過ごし、地上へ出てみると、随分と空が明るくなっている。遅い午後にようやく、薄い雲の裂け目から西に傾きかけた太陽がのぞく頃に、ようやく家を出て博多駅へと向かった。 お買い物…

通信20-24 あなたのお名前何てえの?

おフランス帰りのやつらには何となく苦手な感じを持つが、おフランス帰りを揶揄するように演じているやつらの事は好きだ。例えば「おそまつくん」という漫画に出てくる「イヤミ」。うん、こうして文字に起こしてみると、「イヤミ」って名前も凄いね。 作者、…

通信20-23 おフランス帰りと付き合うなら

今年のゴールデンウィーク、うん、しんみりした事が一つあった。一年半ほど前まで一緒に作曲の勉強をしていた女の子が、久々に会いに来てくれたんだ。ちょいとませくれてはいるが、根は可愛らしい、そして作曲のセンスがとても良い女の子だ。今はもう私の元…

通信20-22 異教徒の密かな楽しみ

数日前にこのブログで、カントとソナタ、つまり音楽は歌唱と器楽に分類されるとかいう事を偉そうに書いたが、実はそれは西洋音楽にとっては、単なる分類以上に深い意味を持っている。われわれが西洋の音楽の歴史のついて語るとき、その多くは宗教音楽の歴史…

通信20-21 沈鬱な朝

今日は朝からカール・フィリップ・エマニエル・バッハのソナタのレッスンを頼まれた。エマニエル・バッハ、うん、何やら問題の多い作曲家さ。われわれ二十一世紀を生きる人間からすると、何とも腑に落ちない音が所々に現れるんだ。ある時代にはセバスチャン…

通信20-20 闘病の記憶

私は咳とゴキブリが嫌いだ、などと宣言したところで、自分もそうだけどそれが何か?という冷ややかな答えばかりが返ってきそうだね。うん、ゴキブリはともかく、咳に関してはいささか自分の古傷を掻き毟られるような記憶があるんだ。 三年ほど前の事だ。私は…

通信20-19 一日の終わりに子守唄を聴く

ぼこっという音、そいつは机が上げた悲鳴さ。その悲鳴を耳にして以来、引き出しの上にキーボードを乗せて作業するなどという雑な事はしていない。机をよく観察してみてようやく気付いた事、それはいつもきちんと引き出しを閉めていなきゃあならないという事…

通信20-18 床屋はまだ私の事を見棄ててはいないらしい

もう何年も前の事だが、小説家中上健次の評伝が出た。そこに描かれた若き日の中上の姿、ひとまず作家としてデビューし、それから二作目を発表するまでの経緯は、かなりの読み応えがあるもので、すっかり引き込まれてしまった記憶がある。 今も続く、「文藝」…

通信20-17 引き出しがぼこっとね

作曲家などといっても、結局は職人としての色が強い。年寄りが杖にすがるように、長い年月を掛けてようやく手に入れた技に大いに依存しながら、日々の仕事をこなしているんだ。そんな職人たちの前に、新しい仕事のやり方、例えばコンピューターを使うなどと …

通信20-16 めがね型ルーペをみつける

さあ、お膳立ては整った、と言いたいところだが、キーボード、うん、ピアノの鍵盤みたいなやつ、そいつに不備が見つかったんだ。ともかくそいつを買い替えなきゃあならない。早速電器屋へ。いやいや、カタツムリみたいにそいつを担いで電器屋から出てくる自…

通信20-15 ぐだぐだしているうちにたちまち1702文字に

何となく浮かれた気分で過ごしているのは、うん、DTМの準備が整ったからさ。いくつかのパソコンソフトをインストールして、さあ、これからだ、そいつらを関連付けしなきゃあならない。それが嫌で、何となくぐずぐずと先延ばしにしていたんだ。いや、そいつは…

通信20-14 ゴム草履不足の時代があった

世の中をすっかり変えてしまったグーテンベルグの大発明、活版印刷は音楽の世界にも大きな影響を及ぼした。次々と譜面が印刷され、売り出されたんだ。誰が買うのかって?もちろん一般の音楽好きな素人さんさ。そうすると、大袈裟にいうならば職業音楽家たち…

通信20-13 バグパイプって何だか面白いよね

今年のどんたくで一番嬉しかった事はというと、バグパイプ隊に行き当たった事さ。別にそいつらを探して、うろうろと歩き回った訳じゃない。天神に向かっている途中、冷泉公園のそばで、偶然にすれ違ったんだ。一気に胸が高鳴るじゃないか。あの下品な、情動…

通信20-12 譜面を読むのって面倒臭いよね

ある時期を境に、音楽は加速度的に複雑さを増していった。ある時期?うん、そいつは記譜法というものが確立した時期さ。音楽を書き取る。その行為は、すでに存在する音楽への批評となる。 もちろん記譜というのは不完全な行為さ。例えば記譜されたものを、単…

通信20-11 音楽の盛大な宴会を享受してみたい

久々の雨の朝だ。別に好天に炙り出されたって訳でもないだろうが、ここ数日、大いに高いテンションで街を徘徊していた事を、まるで昔の事でも思い出すようにぼんやりと考えている。雨音を縫うように、時折、近くの高校からファンファーレの断片が聴こえてく…