通信20-26 明星 平凡 芸能雑誌の愉しみ

 喫茶店で原稿の下書きを取っていると、ふと流れてきたBGMに耳が留まった。ちょいと古臭い旋律、数十年も前によく耳にしたような旋律、その旋律が途切れ、「僕は嫌だ」という台詞が何度も入る。その台詞が耳にこびり付いたまま帰宅した私は、早速「僕は嫌だ」という言葉で検索してみた。うん、最近はインターネットを使って検索するという事を覚え、大して知りたくないような事でも、ともかく検索をしてみるようになったんだ。

 

 

 おお、すぐに引っ掛かった。何とか坂48とかいう人々の歌らしい。(坂の名前は忘れてしまった、少なくとも芋洗坂でない事は確かだ)おっ、そのままユーチューブに飛ぶ事ができるじゃないか。ならば早速ってんで映像を見てみたら、へえ、無茶苦茶にお転婆な女の子たちが大暴れしながら歌っているぞ。うふふふ・・・何だか面白い動きをしているね。アンデスの山中だとか、アマゾンの密林だとか、そういうところでしかお目に掛かれないような、鳥類だか爬虫類だかが求愛の儀式でもしているかのように、胸を突き出してぐいぐいと歩きながら歌っているんだ。

 

 

 ついでに○○48という沢山のグループ、親戚みたいなものかね、それらのグループについてのいろんな記事を適当に読み漁っていると、ああ、新潟の48グループではなかなか酷い事件が起こったみたいだね。今も、昔も芸能界ってのは酷えもんだねえ。

 

 

 アイドルがファンに襲われたっていうような話らしいが、うん、それらしい話は昔から有ったが、今のタレントは事務所からしっかりガードされているのかと思っていた。でも、どうやらそうでもないらしいね。直接会いに行けるというシステムを売りにした事務所があるらしいんだ。おいおい、大丈夫かね。そもそも簡単に会えるような存在じゃ、有難味がないだろうに。昔は芸能人の事をスタアとか呼んでいたが、スタアなんてものはテレビのブラウン管の向こう側だとか、ブロマイドの中だとかで、真っ白い歯をきらりと光らせているところが良いんじゃないのかねえ。

 

 

 そういえば、昔はスタアについての情報が一杯に詰まった夢のような雑誌があって、ファンの連中は皆、そんな雑誌をむさぼり読みながら、あれやこれやと思いを巡らせたもんさ。そんな雑誌には、そうだ誌名を「明星」とか「平凡」とかいうんだが、その中で毎週行われる、スタア同士の対談がなかなかのもんだったんだ。純粋なファンの人たちは知らないよ、ただ、真っ当な大人が読めば、絶対対談なんかしていないぞ、この対談、記者が勝手に想像して書いたもんに違いないと一目で分かるような内容だった。

 

 

 その中でも忘れられないのが、新春ビッグ対談(多分)、そう特別企画の大物同士の対談、先代の貴乃花と、まだ若い石原裕次郎の対談、それがなかなかのもんだった。貴乃花の寡黙さに比べ、若くていささかお調子者の石原は口数が多い。そして、石原の台詞、何故かカタカナが多いんだ。「イヨッ、横綱」だとか「頑張ってくださいヨ」とかね。

  石原「これからも横綱として、相撲界を引っ張っていってくださいヨ」

  無言のままうなずく貴乃花、眉の間に決意がみなぎる。

いいねえ、私はこの対談中、ここが一番好きだねえ。私も一度でいいから、こんな記事を書いてみたいよねえ。

 

 

 この時代の芸能雑誌、何が凄いって、「あなたも是非、スタアへ励ましのお便りを」ってなコーナーがあるんだが、そこに何とスタアたちの住所をそのまま載せていたんだ。「ロッテ歌のアルバム」だとか、「スター千一夜」だとかに出演し、ブラウン管の向こうで、文字通り綺羅星のごとく輝いているスタアたちの住所だぜ。ところでそこに載っている住所、それがなかなか渋いんだよね。「東京都○○区○○一丁目一番地 宝來壮3号」だとか、「○○区○○二丁目 近藤典夫様方」とか、うん、スタアっていっても、実は給料はもの凄く安かったんだ。儲かっていたのは、怖いおじさんたちが経営している芸能事務所ばかりって訳さ。もう個人情報も糞もないもんだ。うん、こういう時には「個人情報もへったくれもないもんだ」という言い方をする人が多いが、私は「へったくれ」という言葉の意味がよく分からないので、とりあえず今回は使用を留保する。

 

 

 ちなみに若い頃、これらの雑誌に大変お世話になった事がある。これらの雑誌には、歌本と呼ばれる、折々のヒット曲が網羅された譜面集が付録に付いていたんだ。きっちりと五線に音符が書いてあり、コードネームも付いているという、有難い代物さ。キャバレーや、クラブでピアノ弾きのバイトをしている時、その付録の歌本がどの店の楽屋に行っても、何冊かは置いてあって、それをピアノの譜面台の上に置いて、酔客のリクエストに応えていたって訳さ。

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