2019-01-01から1年間の記事一覧

通信21-29 雨中散歩

近くに広がる寺町、その道路の一部が舗装された。そのあたりは軽く坂になっていて、山笠が走る抜ける時にそこでぐっと加速するってんで、見どころの一つとなっている。私の家から天神に向かう途中にあるその一帯を、散歩がてらふらついてみた。霧のような雨…

通信21-28 闇営業って何だ?

転寝から覚めると、ん?何だか頭がずきずきと痛む。ああ、寒いんだ。ひんやりとした夜風が窓から吹き込んでくる。おいおい、下旬とはいってもまだ八月だぜ。もう無茶苦茶だと思った。ふらふらと寝床を這い出し、開いていた窓を閉じる。八月にエアコンも点け…

通信21-27 何だか夢の中が赤いんだ

溜まっていた原稿、新たに頼まれた原稿、そういったものをすべて腹から吐き出すように片付けてしまって、うん、ここ数日思い切りぼんやりと過ごしている。作者は忘れたが、昔流行っていた漫画「のんきな父さん」、まるでそんな感じだね。 しばらく見なかった…

通信21-26 セゴヴィアとちびまるこちゃん

何気なく朝刊を眺めていると、ん?一枚の写真に目が留まった。この悲し気な表情でギターを抱えたおっさんは?おお、まさしく伝説のギタリスト、アンドレ・セゴヴィア大先生ではないか。一体、何の記事なんだろう?うん、連載中の古賀政男氏の伝記。ふうん、…

通信21-25 ふらふら歩き回っていると色んなものに出くわすね

今年のお盆の最終日、確か台風と満月が一緒になった日、その日以来、何だか体調が優れない。息切れとまではいかないが、胸部に嫌な圧迫を感じている。咳き込む夜もままだ。咳が続くと、たちまち二年前の心不全を思い出す。ああ、もう一度病院に逆戻りっての…

通信21-24 夏の名残のお中元

突然転がり込んできた原稿依頼にすっかりと肝っ玉を抜き取られた数日だった。昔の知人からの原稿依頼。昔?うん、もう三十年ほども会っていない。何故、突然に私の事など思い出した?本人が言うには、ずっと依頼したかったが機会が見つからなかったとの事。…

通信21-23 一年で一番静かな日を過ごす

「メリークリスマス&ハッピーニューイヤー、ボンボボン・・・」。随分と前の事だが、あるラジオ番組の中でレベッカというグループのヴォーカルだったノッコという人が、一年中の嬉しい事を一つの歌に詰め込んでみたなどと言いながら、口ずさんだのがこのフ…

通信21-22 から元気のような文章を書いてみた

歌手の桜田淳子氏は、その歌の中で「夏は心の鍵を甘くするわ、御用心」などと、いささか素っ頓狂な警告をしていたが、もちろん私はこの夏という季節にそんなものを甘くした経験などない。夏になれば、誰一人、猫の子一匹いない、真っ白い光に炙り出された架…

通信21-21 友人からのお知らせ

確か先週の事だったと思う。いつものように練習の為にスタジオに入ると、ロビーでいきなり誰かから呼び止められた。ロビーに集まった人々の間から風に吹かれたようにふらりと人影が近づいてくる。おお、哀愁のファゴット吹き、埜口浩之君じゃないか。随分と…

通信21-20 迷惑なメールをいただく

この一年ほどの間に書き溜めていたメモをようやく作品に仕上げるという、私にとって年に一度の作曲期とでも言おうか、ともかくそんな二月ほどを終え、ぼんやりとした頭を持て余している。まあいつもの昼行燈に戻ったってな訳だが、ぱらぱらと好きな本の頁を…

通信21-19 吹奏楽って その三

吹奏楽のコンクールが近づく七月になると、コンクールで演奏される曲の総譜が送られてくるという事がこの数年続いている。知り合いが勤める高校の吹奏楽部からだ。そこで慌てて総譜を頭に詰め込み、その詰め込まれた音符が、鼻の穴や耳の穴からぽろぽろと零…

通信21-18 吹奏楽って その二

私の弱い視力のせいだろうか、ステージに並ぶ楽器、うん、そいつはほとんだが金が銀の塗料が施されたものさ、その楽器から朝靄のように淡い光が立ち昇るように漂い、そいつを目にするだけで何だかうっとりするね。 その小学生たちのバンド、ああ、小学生のバ…

通信21-17 吹奏楽ってさ

ようやくひとかたまりの仕事を終えた。何となくシーズン終了ってな感じだ。毎年六月から七月の終わりにかけて、一年の仕事の半分ほどをこなすのが習慣になっている。ああ、目はしょぼしょぼ、頭はくらくら、何だか自分が萎びたナスビのように思えてくるじゃ…

通信21-16 なぜか衝動買いをする

衝動買いなどした記憶がない。そもそも買い物というものが好きではないんだ。ある日、近所のスーパーマーケットの中をぶらぶらと歩き回っていたら、流れてくる店内放送に「どうぞ、ごゆっくりお買い物をお楽しみ下さい」という文言を聞き、えっ?買い物って…

通信21-15 遊びに行きたいのに作曲が止められない

随分と遅れてやってきた梅雨のせいで、今年の夏は短くなってしまうような気がしている。梅雨が遅れてやってきたり、いつまでもぐずぐずと居座ったり、そんな事はこれまでにも度々あったが、それでもある時期になると夏はすっぱりと終わり、秋にずれ込んでゆ…

通信21-14 久々に言葉が戻ってくる

よぜみ・・・?夢か現かひんやりとした冷気を含んだ宵闇の中で、まどろむ頭の中にふと湧いて出たような言葉を、まるで飴玉を口の中で転がすように反芻してみる。夜蝉、確かそんな言葉が俳句の季語にあったような気がするが、果たして夜に鳴く蝉をどのように…

通信21-13 梅雨の醍醐味

三日ほど思い切り作曲に集中できた。これこそが私にとっての梅雨の醍醐味ってやつさ。毎年この時期になると何故だか途轍もなく筆が進む。集中、ああ、でも年を取ると次第にそいつが難しくなっていくんだ。五線紙に向かう自分を、もう一人の底意地悪い自分が…

通信21-12 いつかおくらになる日

ようやく自分にとってのいつもの梅雨が戻ってきたってな感じだ。いつもの梅雨?そうさ、一年に一度、狂ったように原稿を書き進める事ができる、一日中五線紙に齧りつく、まるで紙魚みたいに紙にへばりついて毎日を過ごす季節、うん、そいつが戻ってきたんだ…

通信21-11 昔、富士山を描き続けた爺さんがいた

ようやく音ってものに対して静かな気持ちで向かい合える日が戻って来たような気がする。朝起きたら、まずは机に向かい、ぱらりとさらの五線紙を机に広げ、うん、作曲家ってのはこうでなくっちゃね、パソコンに頭を突っ込んで下らない文章ばかり書いていても…

通信21-10 ちゃんと服を着ると、ほら、清々しいよ

何となく落ち着かない、うん、尻がむずむずするような数日を送ったんだ。何となく仕事がはかどらない。筆、そいつが拗ねた飼い犬みたいに踏ん張って動こうとしない。梅雨が随分と遅れてやってきたせいだろうか。あるいはこの歳になって初めてパソコンってや…

通信21-9 子供の頃水害があった

うん、どこからどう見ても梅雨、まさにこれぞ梅雨という、その立派な梅雨の真っただ中にいる。ああ、でも遅い梅雨入り、そいつはどうも縁起が悪い気がするね。遅い梅雨入りと豪雨、それはセットでやって来るような気がするんだ。 これまで二度、水害を体験し…

通信21-8 小雨の中 教会に出掛ける

昨日は久々に演奏会に出掛けた。ご招待券というものをいただいたんだ。わざわざ出向いて行って聴きたいほどの音楽はないし、知り合いと顔を合わせるのも億劫だしってんで、演奏会に出掛ける事はほとんどない。こうしてご招待券をいただくと、のろのろと家を…

通信21-7 知らないうちにお洒落な男になる

最近は隣室に若い女性が住んでいる。何をしている人なのかはもちろん知らない。部屋にいる事が多いところをみると、受験生かもしれないね。うん、この近くには大手の予備校があって、そこに通う生徒がたびたび引っ越してくるんだ。 狭い階段ですれ違い、軽く…

通信21-6 海辺の街へゆく

先月の事だったっけ、昔の弟子から、音大を受験する高校生三人に音楽理論をちょちょいのちょいと仕込んでやってくれと頼まれたのは。実はその続きをまたやってくれないかってんで、昨日はまたまた県境を越えて、高校生相手にちょいとお喋りをしてきた。 うん…

通信21-5 長い旅の記憶 5

カエルや山椒魚、水辺に棲む生物は手足に吸盤があるが、うん、こうして排水溝から這い上がる術が見つからない時には、その吸盤ってやつが羨ましく思えるね。いや、こうして胸までを正体不明の液体に漬け込んだまま(ついでに傘を刺したまま)、自分の不運を…

通信21-4 長い旅の記憶 4

しとしとと雨まで降ってきた。私は、知らない工場の門の前に捨ててあったビニール傘を拾い、開いてみると、うん、骨が二本ほど折れている。まったく私に似合いの傘さ。おお、闇の向こうに明かりが見える。砂漠でオアシスとやらを見つけた旅人のように、速足…

通信21-3 長い旅の記憶 3

もう老呆けはとっくに始まっている。最近は記憶が随分と曖昧だ。昨日のすっとこどっこいな文章を書いた後、ふと気になって、自分の記憶がどれぐらい正確かって事にさ、うん、それで我が家の四次元ポケットさながら、そこに何が入っているのかもよく分からな…

通信21-2 長い旅の記憶 2

古びたビルの二階、不動産屋の店名を示すプレートが貼られたドアを開くと、「いらっしゃい」という、しわがれた濁声が聴こえた。カウンターの中にいるのは、おお、これこそまさに不動産屋のおやじともいうべき男の顔が見えた。パーマを当てた短髪はすっかり…

通信21-1 長い旅の記憶 1

旅なんて面倒臭いものは嫌いだ。それでもよく旅をした。時には思いがけず長い旅になる事だってあった。いや、もしかすると私は今も旅の途中にいるのかもしれない。何しろ自分が収まるべきところに収まっているってな感じが少しもしないんだ。 当てもなく街を…

通信20-41 休日の前の晩に

今日はいつもお世話になっているスタジオの、月一回の定休日ってんで、朝からゆとりをもって過ごしている。丁寧に朝ご飯を作って、そいつをよく噛んで食し、ベランダの雀にも丁寧にご挨拶、薄い雲がかかった青空を眺めながら、意味もなくうふふふと笑ってみ…