通信21-17 吹奏楽ってさ

 ようやくひとかたまりの仕事を終えた。何となくシーズン終了ってな感じだ。毎年六月から七月の終わりにかけて、一年の仕事の半分ほどをこなすのが習慣になっている。ああ、目はしょぼしょぼ、頭はくらくら、何だか自分が萎びたナスビのように思えてくるじゃないか。

 

 日本では吹奏楽というのが、うん、管楽器と打楽器だけで合奏するんだ、そいつが大流行りらしいが、それに関わった事はほとんどなかった。何となくその響きが苦手なんだ。管弦楽なら、その響きの中心になるヴァイオリンという楽器、そいつが何十人も束になって旋律を奏でるんだが、そのヴァイオリンという楽器の代わりにクラリネットというやつが使われる。でもこのクラリネットって楽器、そいつは束になって演奏するにはいささか不向きなんだね。ヴァイオリンのように互いに共鳴し合う事がなく、束になった分だけ足し算のように音が大きくなるんだが、その代わり暗い響きになる。ヴァイオリン、強いていうならばそれは重ね合うと足し算ではなく、掛け算のように響きが広がってゆくのさ。

 

 今はすっかり現役を退いて暇を持て余した私は、うん、浮世の義理ってやつね、自分の弟子が高校の教員をしている関係で、時折その吹奏楽部に指導という名目で、もちろん実際には何の役にも立っていない、ただの冷やかしに出掛けているんだ。

 

 毎年、夏になると吹奏楽のコンクールが全国規模で開かれ、それに向けての練習が盛んになる。その練習のお手伝いに出掛けていく訳だが、実はそのコンクールという本番の現場を一度も見た事がなかったんだ。うん、よく考えると何だか申し訳ないね。今年はたまたま個人的に教えている弟子の一人が、是非自分の晴れ姿を一目見て欲しいとチケットを押し付けてきたので、ならば冥途の土産にとコンクール会場へ出掛けてみた。うん、何やら初めての体験でわくわくするね。

 

 数十年振りに福岡サンパレスというホールに入った。結構古い建物さ。おっと随分と座席が狭いね。何だか膝小僧を抱えたガキみたいに窮屈な姿勢で客席に蹲る。「携帯禁止、ゲーム機の使用禁止」と抱えた大きなパネルを抱えた、ボランティアらしき高校生たちがひっきりなしに通路をうろうろと歩き回っている。その高校生たちが、何らや携帯電話を手にしている人を見つけると急いで駆け寄り、そのパネルをぐいっと相手の目の前に突き出すんだ。その感じの悪さが何やら滑稽で、私は一人笑いをこらえていた。

 

 偉い人のご挨拶が終わり、ようやく演奏が始まる。えっ?小さい?何だこいつらは?コロボックルかピグミーか?と思わず目を凝らすと、おお、小学生の団体なのか。へえ、いいねえ、楽器と、それを大事そうに抱えた奏者の大きさがたいして変わらないぞ。うん、一体どんな音が出てくるんだろう?何だかどきどきしているうちに演奏が始まったんだ。

 

                                                                                                   2019. 8. 4.