通信21-20 迷惑なメールをいただく

 この一年ほどの間に書き溜めていたメモをようやく作品に仕上げるという、私にとって年に一度の作曲期とでも言おうか、ともかくそんな二月ほどを終え、ぼんやりとした頭を持て余している。まあいつもの昼行燈に戻ったってな訳だが、ぱらぱらと好きな本の頁を眺めながら、ふと思いついたように新しい曲のメモをとる。うん、楽しい時間さ。珈琲を啜ったり、鼻毛を抜いたり、右を向いたり、左を向いたり、ついでに上も下も・・・人様からみるとこいつは何をやっているんだろうかとしか思えない時間、この時間こそが何より大切なんだ。ココロとかいうやつをとろとろに遊ばせ、時折閃いたようにいくつかの音符を書きつける。いつも目の前に五線紙がある訳じゃないので、新聞紙にマジックで黒々と殴り書きをしたり、机や壁に落書き状態でメモしたり、うん、夜になって落とし物を拾い集めるように、それらのメモを下書き用のノートに写し取り、大袈裟に欠伸でもしながら「ああ、今日も一日よく働いた」などと臆面もなく嘯き、大欠伸を一つ、それから布団にもぐり込む。そんな日々がようやく戻ってきたんだ。

 

 携帯電話のメールを開くと、おっと、未開封のメールが随分と溜まっているじゃあないか。最近では電話やメールの着信音も切っているので、人様からいただいた御連絡に気づくのも遅い。しかも最近、私に送られてくるメールといえばいかがわしいものばかりなので、ますます通信という機能から遠ざかってゆく事になる。

 

 ともかくメールを開いてみると、ああ、やっぱり迷惑メールとやらばかりだね。ここ数年、有名人に成りすましてこちらを取り込もうとするメールがやたらと多い。「タカヒロです。今度のATUSHI君の誕生パーティーの件だけど」ん?タカヒロ?ATUSHI?・・・うん、いくら無知な私でも何となくわかるぞ。何とかいう名前のグループに所属している人たちじゃあないだろうか?ううううん、一体何という名前のグループだったっけ?ううう、と頭を抱えながら何気なくメールアドレスを見るとexile@〇〇〇となっているじゃないか。なるほど、痒いところに手が届くような迷惑メールって訳だね。

 

 その他にも、「今度のドラマの打ち上げで恵梨香ちゃんや愛未ちゃんたちと」などというメールもあった。ああ、もうこうなるとお手上げだね。恵梨香ちゃんが一体何者なのかも分からないし、愛未ちゃんにいたっては何と読むのかすらもわからない。先様の目論見としては、まさかあの有名人が私に間違ってメールを送ってきたのか?などと震える手でおずおずと携帯電話に返信を打ち込んで欲しいのだろうが、あいにく最近は心にゆとりがないで、君らの目論見にお付き合いできないんだ。申し訳ない。

 

 数年に一度、この手のすっとこどっこいメールが送りつけられてくるんだが、うん、二三年前にまとめて送りつけられてきたもの凄く粗雑ななりすましメール群、本気で人を騙す気があるのか、そもそもそこから疑いたくなるようなメール群は何とも滑稽な出来で、送られて来るのが少し楽しみだった。例えば「タモリです。返信もらってもいいかな?」だとか「細木数子よ。あなたにずばり言わなければならない事があります」だとかさ。その中でも一番笑ったのは、松平家の現当主から、この私に財産を譲りたいという内容のもので、その書き出しは「私、松平定義と申す者」だった。この「申す者」という言い回しに、うん、しばらくの間、一人でくすくすと笑ったんだ。

 

                                                                                                          2019. 8. 8.