通信24-7 フィリピンのお嬢さんからチョコレートを買う

伝染病の影響で大いに収入が減った。思わずごくりと息を呑むほどに。といっても普通に生活していられるからまあいいか。実は今、自分がどれぐらいの収入を得ているのかは知らない。仕事のギャラはほとんどが銀行振り込みだし、出費もほとんどが銀行引き落と…

通信24-6

最近、暇な夜にはアマゾンの無料動画のラインアップを眺める事が多い。特に邦画。うん、何やら懐かしい映画が並んでいるんだ。今年亡くなった東陽一監督の佳作「サード」、まだ若い、いささか軽薄で無軌道な若者役が似合っていた水谷豊が主演を務めた「青春…

通信24-5 三ヶ月ぶりに楽器に手を触れる

伝染病騒ぎで毎日使っているスタジオが閉鎖になったのが三月の中頃。再びその扉が開いたのが六月のやはり中頃。つまり三か月ほども楽器に触れなかった事になる。若い頃ならいいさ。ああ、でもこの歳になって三か月の中断は致命的な事に思える。三か月も楽器…

通信24-4 玉羊羹のような水ぶくれ

そういえばおかしな春だった。今年の春は。伝染病が猛威をふるい・・・いやいや、世間様が言うほどに猛威をふるったって訳じゃない。ただ、人々はあまりに過剰に反応したんだ。元々、人は大騒ぎってのが大好きだからさ。街中いたるところで罵り合い。私が購…

通信24-3 人様のインスタグラムにお邪魔する

それにしてもどれぐらいの期間、文字を書く事から離れていたんだろう?四ヶ月?五ヵ月?その間何をしていたのかって?うん、季節外れの冬眠さ。伝染病でこの国がひっくり返りそうになったのが確か三月から四月にかけて。まさに大騒ぎ。インターネットも大賑…

通信24-2 病院をはしごした

初めて病院とやらをはしごした。内科と眼科。腹が減ったら食堂に出向くように、体が壊れれば病院に行く、そんな当たり前の事にようやく気付いたんだ。五線紙にへばりついている間、どんどん目が翳み続け、もはや譜面を読む事も書く事もままならないと思い、…

通信24-1 えっ?もう秋になったのかい?

枕の上にどさりと置かれた自分の頭を持ち上げようとすると、思いの外そいつは重く感じられた。おいおい、私の頭、そいつは今、空っぽの筈だぜ。明け方近く、ここ数週間取っ組み合っていた新曲を書き終えたんだ。三連作の二曲目。二曲目?ああ、あと一曲残っ…

通信23-15 もうハンバーガーを食べなくてもいいんだ

ハンバーガー屋の大きな窓、その窓から惜し気もなく降り注いでくる明るい陽射し。そのお陰でようやく校正が終わった。ほっとしている今、正直に思っているのは、うん、もうハンバーガーを食べなくても済むという事だ。数日間、毎朝、そいつを食べ続けたのだ…

通信23-12 ハンバーガー屋で過ごす朝

仕事を終えた後の、何か大切な物を置き忘れてしまったかのような妙ちくりんな不安も次第に薄れてきて、うん、いつもの薄ぼんやりした自分が戻ってきた。ここ数日は、すっかり疲れ果てて、使い古された古雑巾のような自分の体に鞭打つように、朝から散歩に出…

通信23-11 函館ってどんな街なんだろう

春嵐?いやいや、そう呼ぶのはあまりに大袈裟だろう。いきなりの驟雨が窓を打ち、強い風があたりを吹き抜ける。うん、三寒四温の三寒ってな感じだね。一昨日から冷え込みが始まったから、そうさ、明日からはまた四温に入るんだろうさ。 昨日、原稿を上げてか…

通信23-10 タケノコみたいにむずむずと

酷い憂鬱のど真ん中にいる。昨日、ようやく新作を書き終えたんだ。その前、最後に本気で作曲をしたのはいつだっただろう。よく思い出せないが、多分2004年だか2005年だか、それぐらいだったんじゃないだろうか。それからずっとリハビリと称して小さな曲をぽ…

通信23-9 まずは音から逃げる事だ

これまでほとんどの曲を青藍山の山奥か、平戸の漁村の中にある仕事部屋で書いてきた。今回、自分が普段暮らしている部屋で作曲しようと試みているんだが、これは思ったより随分と大変な事だと改めて感じている。 何が大変かって、うん、まずは自分の中に灰塵…

通信23-8 清書にはいりまあす

仕事場の閉鎖が延長になったのを機に、新しい連作集をと思い立ち、さくさくとスケッチを取り始めた私だが、おいおい、ちょっと待てよ。それ以前に絶対にやらなきゃあならない事があるだろう。そうさ、「ホルンとチェロとピアノの為の三重奏」、いい加減そい…

通信23-7 おお つげ義春さんお元気そうじゃあないか

先日、たまたま立ち寄った古本市で花輪和一の「御伽草子」という漫画を買った。何と言うか・・・何が描いてあるのかよく分からなかったり、あまりの投げやりなおちに、描かれたやつらの底抜けな性格の悪さに、「ひでえ」などと思わず呟きながらも、げらげら…

通信23-6 閉鎖は続くよ どこまでも

四月一日より稼働すると知らされていたスタジオが、二週間ほど閉鎖を延期するらしいという情報が流れて来た。急いでスタジオのホームページを開いてみると、ああ、確かにそのように告知されている。ううううんと情けない唸り声を立ててパソコンを閉じ、この…

通信23-5 こんな時は「デカメロン」など読み耽りたい

ようやく百枚ほどの原稿を書き上げた。酷く目が疲れた。ああ、私の眼球は五分の一ほどに縮んでいるんじゃないだろうか。それに何だか指もぐにゃぐにゃになってしまった。そういえばちょいと怪我した左手が、どらえもんのように真ん丸に腫れ上がり、まる一日…

通信23-4 幽霊の正体見たり枯れ尾花

朝、突然ご近所にお住いのМさんからメールをいただいた。多分通勤の途中でその風景を目にされたんだろうね、いつも渡る橋の下にパトカーや消防車が群がっているとの事。それでは眠気覚ましに早速行ってみますという返信をしたが、うん、どうやらМさん、この…

通信23-3 新しい協奏曲に没頭する好機がやって来た

平和とまどろみの象徴のような朝日が燦々と窓から注がれてくる。コロナといえばあらゆる良きものの代名詞だったはずだが、まったく太陽もとんだとばっちりを受けているってなもんだ。 朝からぼんやりとこんな事を考えながら過ごしているのは、ああ、とうとう…

通信23-2 続 燕尾服の思い出

あれこれ燕尾服の事など考えているうちに、ふと、おかしな一日の事を思い出した。音楽家ってのはだらしないなあ、などと思う事がたびたびあるが、特にその事を強く感じさせる思い出の一日があるんだ。 まだ、私が老人ではない、多分三十代前半だったと思う。…

通信23-1 燕尾服の記憶

コロナ禍のお陰ですっかり暇になった某君がいきなり訪ねて来た。季節外れの夏休みってな感じで毎日すごしているらしいが、やはり生活の事が大いに気になっているのだろう、夏休みの宿題に追い詰められたガキのような憂鬱な表情が、ちらちらと会話の合間に覗…

通信22-41 ああ、文章を書かなくちゃ

陽射しは汗ばむほど暖かいが、嵐のように風が吹き荒れて、春になった、のだと思う。それにしてもいつの間にか消え去った冬、今年のその冬は随分と迫力のないぼうっとした季節だった。ここ数年、毎年冬が私の周りの誰かを掻っ攫っていった。そろそろ、この私…

通信22-40 リハビリは続く

リハビリは続く。ここ数日はひたすらチェロという楽器のために重音を書き続けた。重音?うん、ヴァイオリンだのチェロだの、ああいう楽器は折角四本も弦がついているんだから、数本の弦を同時に鳴らして和音を奏でないと勿体ないじゃあないかね。セバスチャ…

通信22-39 ベートーヴェンは雨戸にも音符を書いたらしい

久々にいつもの朝が戻ってきた。いつもの朝?うん、寝ぼけまなこで珈琲を啜りながらバッハのコラールと戯れる朝さ。これまで何十年もの間、勉強しているという感覚で読み込んでいたバッハの譜面だけど、最近はただただそれらに触れるのが楽しくてしょうがな…

通信22-38 鶴の恩返しのように

近所のホームセンターで座卓を買った。うん、まあ、卓袱台の事だね。仕事部屋の環境作りに励む今、仕事机を完成させる為さ。視力が弱い私としてはスロープが欲しかったんだ。四本足の卓袱台、そいつを仕事机の上に置き、四本足のうち二本だけを立てると、ほ…

通信22-37 仕事への意欲は環境づくりから

とりあえず机の上は片付いた。机の左側、そこは壁沿いになっているんだが、そのあたりが恐ろしい状態になっていたんだ。一歩間違えばたちまち雪崩が起こるような感じさ。本や、譜面や、パソコンのソフト、いったいいつ手に入れたかもわからないようなカセッ…

通信22-36 携帯電話との再会

どこかで電話が鳴っている。夢の中に半分頭を残したまま部屋の中を寝ぼけ眼で見回すと、あれ、その音、ベッドの下から鳴り響いているじゃあないか。おお、久しぶりじゃあないか。元気にしていたかい?と電話に問い掛けてみる。 うん、ここ二三日、私の携帯電…

通信22-35 保温ジャーにまつわる悲しい思い出

今日は珍しく午後にスタジオに入ったんだが、おお、久しぶりじゃないか、旧友のT君に呼び止められた。何故かT君、スーパーで買ったような弁当を私に向かって差し出し、よかったら食べないかという。一緒に練習するはずの相方が突然に体調を崩してこれなくな…

通信22-34 銀河鉄道の父という本を読む

二月とは思えないほどの暖かい朝だが、いささか季節を先取りしたような、うん、まるで菜種梅雨のような雨が降っている。ベッドの上で体を起こすと、あれ、弥次郎兵衛から人間に戻っているぞ。すっかり眩暈がなくなっている。おお、久々の爽快な朝だ。 そうい…

通信22-33 冬陽の中 舞踏に寄り添う

朝、泥の中で目を覚ました。泥の中?いやいや、泥じゃない、確かに泥に近いような物体ではあるが一応これはまだ布団と言っていいだろう。夢の中で私は古い友人に組み付かれていた。おいおい、止めてくれよ、私にはその手の趣味はないんだ。・・・その薄気味…

通信22-32 日本酒とヴァイオリンに溺れる

昨日は久々に美味い酒を飲んだ。うん、一昨日の事だ。楽しいセッションを終え部屋に帰り着いた後、そのセッション相手、別れたばかりのお姉さんからメールが来たんだ。「明日、面白いライブがある。そのライブ会場で美味い酒が飲めるんだぜ」みたいな内容の…