通信24-3 人様のインスタグラムにお邪魔する

 それにしてもどれぐらいの期間、文字を書く事から離れていたんだろう?四ヶ月?五ヵ月?その間何をしていたのかって?うん、季節外れの冬眠さ。伝染病でこの国がひっくり返りそうになったのが確か三月から四月にかけて。まさに大騒ぎ。インターネットも大賑わいさ。真面目な友人たちが、次々と視聴者の元気が出るような楽しい動画をネットに上げ続け。「今、自分にできる事を」などという合言葉の元、ああ、純粋に良い奴らだねえ、私も友人たちのパフォーマンスをパソコンの画面越しに大いに楽しんだって訳さ。

 

 「よし、ならば私も自分にできる事を」そう思って考えるも、私にできそうな事といえば「死んだふり」ぐらいだね。うん、それでも人様の元気を奪うような不吉な文章をだらだらと書き続けるよりは、死んだふりの方がまだましってなもんだ。

 

 などと高いびきを決め込んでいたところに、ばたばたと足音高く現れたのが我が心のチェリスト、石原まりさんだ。「おい、いつまで寝てんだ、早く起きろよ」とばかりに私に布団を剥ぎ取り、「さあ、音楽史について喋りやがれ」とインスタグラムとやらに放り込まれ、ついでに「お前の詰まらない話だけじゃお客様方に失礼だ」ってんで「毎回、小品を一個ずつ書いてこい、グリコのおまけみたいなやつを」、それで気弱なこの私、何ヶ月も眠りっぱなしのせいですっかり腫れ上がった両のまなこを擦り擦り、ろくに資料もない地方都市の図書館をよたよたと走り回る事になったんだ。

 

 でも、石原まりさんにはとても感謝している。改めて調べてみるとヨーロッパの歴史は、うん、もうめちゃくちゃに面白いんだ。すっかり目が醒めたね。もしかしたら眠ったままいつの間にか死んでしまってたなんて可能性もあったからね。そういえば中世のヨーロッパ人が一番恐れていた病気の一つに嗜眠病ってのがある。深い眠りに落ちたまま、目を覚ます事なく死んでしまうという病気らしい。専門家によると多分現在のナルコレプシーではないかとの事。

 

 音楽史の話をするったって、もちろん学者のように事実をきちんと調べ、そいつを発表するってな感じじゃあない。そんな見識もなければ知能もない。そもそも街中には資料がないんだ。仕事として音楽に関わりながら、音楽史家としては大いに素人目線、その目線で事実を切り裂いていきたいとそう思っているんだ。

 

                                                                                                         2020. 10. 2.

 

 数日前には被差別芸人としての中世ヨーロッパの楽師たちについて話をした。まるで鏡を見ているみたい、うん、まさに私の祖先さ。彼らの存在を読み解いてゆくといろいろなものが見えてくるね。自分が今、何故こういう事をしているのか、そしてこれから何をどうしてゆくべきなのか。深い海に飛び込むように、年表の中に潜り込んでいきたい。ああ、それこそが生きた歴史を学ぶ醍醐味って訳さ。