通信22-37 仕事への意欲は環境づくりから

 とりあえず机の上は片付いた。机の左側、そこは壁沿いになっているんだが、そのあたりが恐ろしい状態になっていたんだ。一歩間違えばたちまち雪崩が起こるような感じさ。本や、譜面や、パソコンのソフト、いったいいつ手に入れたかもわからないようなカセットテープ、まだ開封もされていない確定申告の用紙、カエルの首人形・・・、ともかくおぞましいものが、まるで飛び込み台の上から足下に広がるプールを窺う高飛び込みの選手みたいに、時折ぷるぷると震えながら、機会があれば一気に崩れ落ちてしまおうと待機していたんだ。

 

 その山を崩れ落ちないように、一つ一つ丁寧にばらしてゆく。作業しながら、あれ?何かこんなゲームなかったっけ?無造作に積んだ将棋の駒を、一つ一つ音を立てないように崩してゆくやつ、などと頭の中ではろくでもない事を考え続けていた。

 

 それにしてもともかく紙屑が多い。いやいや、厳密にいうとそれは紙屑ではなくメモの断片なんだ。大雑把に、捨ててしまうものとそうでないものに仕分けする。うん、いつだったか「素敵な奥様」だか「オレンジページ」だか、ともかくそんな雑誌の「賢い片付け術」特集号で見たやり方に従ってみたって訳さ。

 

 その二つとは別にともあれメモ類だけを集めてみた。ああ、なんという資源の無駄遣い。五線が印刷されたA三のコピー用紙にちょこちょこと音符が書きつけられたものがうんざりするほど出現した。二段組みのスコアが二三段も書かれたものはまだ良い方で、わずか五六個の音符が書かれただけのものまであるじゃあないか。ともかく頭を掠めた音を片っ端からメモし、そのまま放り出すという事を何年も続けた結果出来上がったのがこの屑の山さ。枯れ木も山の賑わい?塵も積もれば山となる?ふん、何だっていいさ。とりあえずその塵芥同然の音符を一つ一つ眺めながら、使えそうなものがないかを吟味してゆく。

 

 ああ、そんな事に頭を突っ込んでいる間に、ほうら、鴉がかあかあ鳴き出して、うん、もう夕方さ。ともあれ本日はこれまでってんで作業を中断する。ああ、でも、いささか広くなった机を眺めていると、何だか仕事に対する意欲が湧いてくるじゃあないか。そうだね、私の大掃除の仕方はいつも間違っていた。まずは水回りからなどと、そこだけは律義に、風呂桶や便器をせっせと磨き、台所の隅に溜まったごみを片付け・・・うん、そのあたりでいつも息切れして、いつの間にか大掃除の事など忘れ遊びに行ってしまうんだ。という訳で大掃除の手が仕事机にまで及ぶ事は一度もなかった。

 

 そうだね、ようやく有意義な反省が出来たって気がするね。よし、こんどこそはきちんと清書の意欲が萎れてしまわないような仕事部屋にしてしまうんだ。そう決意したとこで、さあ、遊びに行こうっと。

 

                                                                                                              2020. 2. 23.