2020-01-01から1年間の記事一覧

通信22-38 鶴の恩返しのように

近所のホームセンターで座卓を買った。うん、まあ、卓袱台の事だね。仕事部屋の環境作りに励む今、仕事机を完成させる為さ。視力が弱い私としてはスロープが欲しかったんだ。四本足の卓袱台、そいつを仕事机の上に置き、四本足のうち二本だけを立てると、ほ…

通信22-37 仕事への意欲は環境づくりから

とりあえず机の上は片付いた。机の左側、そこは壁沿いになっているんだが、そのあたりが恐ろしい状態になっていたんだ。一歩間違えばたちまち雪崩が起こるような感じさ。本や、譜面や、パソコンのソフト、いったいいつ手に入れたかもわからないようなカセッ…

通信22-36 携帯電話との再会

どこかで電話が鳴っている。夢の中に半分頭を残したまま部屋の中を寝ぼけ眼で見回すと、あれ、その音、ベッドの下から鳴り響いているじゃあないか。おお、久しぶりじゃあないか。元気にしていたかい?と電話に問い掛けてみる。 うん、ここ二三日、私の携帯電…

通信22-35 保温ジャーにまつわる悲しい思い出

今日は珍しく午後にスタジオに入ったんだが、おお、久しぶりじゃないか、旧友のT君に呼び止められた。何故かT君、スーパーで買ったような弁当を私に向かって差し出し、よかったら食べないかという。一緒に練習するはずの相方が突然に体調を崩してこれなくな…

通信22-34 銀河鉄道の父という本を読む

二月とは思えないほどの暖かい朝だが、いささか季節を先取りしたような、うん、まるで菜種梅雨のような雨が降っている。ベッドの上で体を起こすと、あれ、弥次郎兵衛から人間に戻っているぞ。すっかり眩暈がなくなっている。おお、久々の爽快な朝だ。 そうい…

通信22-33 冬陽の中 舞踏に寄り添う

朝、泥の中で目を覚ました。泥の中?いやいや、泥じゃない、確かに泥に近いような物体ではあるが一応これはまだ布団と言っていいだろう。夢の中で私は古い友人に組み付かれていた。おいおい、止めてくれよ、私にはその手の趣味はないんだ。・・・その薄気味…

通信22-32 日本酒とヴァイオリンに溺れる

昨日は久々に美味い酒を飲んだ。うん、一昨日の事だ。楽しいセッションを終え部屋に帰り着いた後、そのセッション相手、別れたばかりのお姉さんからメールが来たんだ。「明日、面白いライブがある。そのライブ会場で美味い酒が飲めるんだぜ」みたいな内容の…

通信22-31 セッションの快楽

随分と昔の事だが「お口の恋人、ロッテ」のコピーで知られる菓子メーカーのロッテ、そのコマーシャルのたびに流れるホルンの音、あれはアルペンホルンだろうか、ともかくそのホルンという楽器の音、そいつがここ数週間、常に頭の中で鳴り響いているんだ。 ホ…

通信22-30 あまりにも役に立たない告知

ここ数日、もやっとした気分を抱えたまま過ごしている。実は来週本番があるらしいんだ。「あるらしい」って、とうとう自分のスケジュールも分からなくなるぐらいに呆けたのかと言われそうだが、あながちそういう訳じゃあない。日時も場所も把握している。た…

通信22-29 サーカスを観た夜

口元はだらしなく半開き、おいおい、涎が垂れていないかい?目を皿のように開き、ぽかんと天井を見上げる。うん、そんな姿が間抜けだという事はもちろん自分でも分かっているさ。分かっているけどやめられない。「すーだら節」の歌詞みたいにそれでもぼんや…

通信22-27 地下室の甘い誘惑

それが朝なのかも夕方なのかも分からないような暗い空に、冷たい雨が横殴りに降りつける。いきなり西の空が光り、あたりに雷鳴が響く。ああ、いいねえ、これこそが冬さ。人間の一人や二人、簡単に掻っ攫っていくぞとでも言いそうな、凶暴で不吉な季節、そい…

通信22-26 ジミヘンも真っ青?

ここ数日間、慣れないパソコンの作業に頭を突っ込んで過ごした。去年の夏頃に勉強を始めて、それからしばらく中断していたDTМとかいうやつ。要するにコンピューターを使って音源を作るってやつさ。年寄りには面倒臭い作業である上に、特に必要に迫られている…

通信22-25 知人に部屋探しをお願いする

年末からずっと続いていた酒をようやく抜いた。年末年始に様々な人からいただいた酒を、やっと飲み尽くしたんだ。特に年が明けてからはもう自分がどれぐらいの量の酒を飲んでいるのかも分からなかった。思えば若い頃はずっとだらしのない酒飲みとして過ごし…

通信22-24 風に運ばれる綿毛のように

階下の住人が引っ越していった。確か引っ越してきてまだ一年目ではなかっただろうか。それぐらいの期間を過ごしただけならさほど荷物もないのだろう、引っ越し屋のあんちゃんと、母親らしき女性があっという間に荷物を片付けてしまった。 これから暫くの間、…

通信22-23 街にサーカスがやって来る

近所にお住いのお姉さんから嬉しいお誘いをいただいた。お誘い?そうさ、サーカスに誘われたんだ。あの木下大サーカスだぜ。会社の忘年会のくじ引きで招待券を引き当てたんだって。「へええ、変な会社だねえ」などと呟きながらも嬉しくて「うふふふ」と笑み…

通信22-22 少しずつ仕事の勘が戻ってくる

年を越したあたりから、下書き用のノートに書きつけるメモの量がすっかり減ってしまった。うん、これは良い事なんだ。記憶の機能が上がってきているんだ。メモに頼らず頭の中で粘土を捏ねるように音の塊を捏ねてゆく。ああ、これこそが作曲の醍醐味さ。 自分…

通信22-21 懐かしい音に足を止める

日曜日の夜のスタジオは概ね静かだ。休日の夜、翌日の出勤の憂鬱さを頭に抱えながら練習をしようなどという好き者がそう沢山いるはずもなく、まあ当たり前といえばそうなのだろうが。夜の九時を過ぎるとほとんどの部屋の明かりが消え、淋しい気持ちを抱えな…

通信22-20 夜中に酔っぱらって人様の家でピアノを弾く

泥のような眠りから覚めると、おお、もうスタジオに入る時間じゃないか。絡まった衣服を剥ぎ取るように慌てて着替え、いつも着ている上着に腕を通そうとすると、あれ、何だか随分と重くないか?そのずしりと重さを感じる上着のポケットに手を突っ込んでみる…

通信22-19 最近、猫に絡まれるんだ

ようやく練習場が開いた。年末にあまりにテンションを上げ過ぎた私は、その高いテンションのまま年末年始の休みに呑み込まれてしまった。起きて、酒を飲んで、好き勝手な考えで頭を一杯に満たし、疲れると寝て、悪夢にうなされ、その悪夢から逃げ出すように…

通信22-18 無防備都市を観た

一昨日は久々に「無防備都市」を観た。1945年、まだまだ戦争の疵が生々しいイタリアで作られた映画さ。チネチッタという撮影スタジオは戦没者の死体置き場になっているから使えない。撮影はすべて実際の街中でなされている。フィルムも十分な量をそろえる事…

通信22-17 ウォークマンは眠り続ける

何だかあらゆる出来事を遠くに感じる。自分だけがひりひりとした気持ちを抱えて蚊帳の外にいるように感じるのは、うん、まだおぼろげなものでしかないが、確かに新しい作品を腹の中に抱え込んだからさ。まだ今は小さいが、これから途方もなく膨らんでゆく「…