通信27-23 実はエアコンってやつは部屋を暖める事もできるんだ

 部屋の中が少し肌寒く感じた。ふと思いつきエアコンの暖房を入れてみる。あれ、思ったより随分と暖かいじゃないか。私は生まれてこのかた、エアコンの暖房なんてほとんど効かないようなものだと思い込んでいた。

 

 七月の終わりだった。今年はひどい猛暑で、連日のニュースを見ているとあちらこちらでばたばたと人が熱中症で倒れているような気がしていた。そんなある日、一向に冷房が効かない。そういえば何だかエアコンの音がおかしくないか?あのベランダからガラス越しに聞こえてくる、今一生懸命部屋を冷やしていますという感じのばたばたした音がしていないんだ。カーテンを開き、ベランダの室外機を見てみると、あれ、ファンが回っていないじゃないか。そう思って見上げると、ああ、エアコンの通風孔からは何とも生ぬるい風が。

 

 素人の浅知恵で思いつくようなものは一通りやってみた上で、このエアコンは壊れてしまったのだと判断した。早速不動産屋に電話を入れる。「エアコンの製造年はわかりますか」「えええ・・・」と答える私の声が圧し潰したようなものになってしまうのは、不自然に首を捻りながらエアコンのどこかに張り付けてあるだろうシールを捜しているからさ。「あった、あった・・・ええっと、1996年と書いてありますね」おいおい、このエアコン、前世紀に造られたものかよ。

 

 結局、そのエアコンは多分寿命を迎えたのであろうという事になり、数日後に交換という事になった。ん?数日後?それまでいったいどうやって五線紙に向かえばいいんだ?結局、その数日間、原稿はほとんど近くのハンバーガーショップのカウンターで書いた。うん、仕事は何とかこなせたさ、しかし最初は考えもしなかったが、眠るのに一苦労だった。汗のなかに浮かびながら浅い眠りの中で見る夢はすべてがろくなものじゃなかった。いっそ水風呂の中に浮き輪を浮かべ、そこにぷかぷかと浸かりながら夜を過ごす事も考えたが、朝になってぶよぶよにふやけた自分を思い浮かべ断念した。

 

 そういえば半世紀も前の事、映画音楽の仕事をしていた私は、ひたすら睡魔と闘いながら五人ほどのアシスタントたちと共に三日間の徹夜作業をこなした。仕事が終わり、そのまま風呂に入ったもののそこで寝入ってしまったアシスタントの某君は、結局八時間以上の長湯をする事となり、しばらく足がふやけて靴を履く事すらできなかった。

 

 ともあれエアコンが交換されるまでの数日間、ひどい体調不良とともに過ごした。たまたま病院で持病の診察を予定が入っていた。顔面蒼白、ふらふらと診察室に入った私は即座に熱中症という診断を下され、お医者様からはエアコンが直るまではホテルで過ごすようにという指示をいただいた。

 

 そうして数日後に交換してもらった新しいエアコンは、おお、冷えるじゃないか。まさにテレビコマーシャルのようにペンギンや白熊が涼し気な顔であたりを転がり回っていそうだぜ。そして今日、初めて暖房ってものを点けてみたんだ。なんと暖かい。そうかこれまで私が出会ったエアコンはすべてが年代物のよぼよぼ、まさに今の私同然のものばかりだったんだ。そういう訳でこれまで冬は石油ストーブを使い続けていたが、うん、今年はちょいとこのエアコンってやつの世話になってみようかね。もちろんストーブは私にとって大切な調理器具だ。冬の間、我が家のストーブの天板の上ではいつも暖かいスープや、シチューが湯気を立てている。という訳で、ストーブとエアコンのローテーションについて思いを巡らせているところさ。

 

                                                                                                     2022/ 11/ 23.