通信22-5 チェロ奏者が見つかる かもしれない

 ようやく冬支度を終えた。大切なのは食材だけじゃない。衣と住、うん、そいつらも大事だよねってんで、早速近所のショッピングセンターに行って長袖のTシャツを三枚、運動靴を三足買ってきた。これがこの冬の間に着潰す、あるいは履き潰す全てだ。

 

 それから灯油、実は毎年、灯油を買いに出掛けていた近所のホームセンターがなくなってしまった。ついでに灯油を扱っている酒屋も店を閉めてしまったんだ。ううううんと頭を捻った挙句、うん、配達を頼む事にした。最近憶えたインターネット検索とやらを使って店を探す。それらしい店は見つかったが、まずは電話で「宅配君で見た」とお伝えくださいと書いてあるじゃないか。うへえ、私はこの○○君ってのを口にするのが苦手なんだ。もちろんコンビニのレジでも「からあげくんを下さい」などとは言わない。

 

 そういえば居酒屋やレストランのメニューにある、店側が適当につけた商品名、例えば「ピリ辛ぽりぽりキャベツ」だとか「シェフの気まぐれサラダ」だとか「森のきのこたちの贅沢シチュー」だとか、そういう言葉を口にするのも真っ平だ。

 

 ともかく燃料店に電話をしてみる。小声で「$%&#$君で見ました」と告げるも、「はい?」と訊き返される。少し声を大きくして「あのう、%$#君で見ました」、「えっ?」、ええい、面倒だ、思い切りマルカートで「たくはい君で見ました」ああ、とうとう恥ずかしい言葉を口にしてしまった。まあ、それは一時の恥で、今はぬくぬくとした石油ストーブの炎に暖められながら、その恥ずかしさもすっかり忘れてしまっている。

 

 ともあれこれでようやく冬を超えるための手札が揃ったって訳だ。うん、しかもこの冬は引きこもりには最適の一品、作曲の準備ってやつを抱え込む事になっている。チェロの作品を一本。持つべきものは何とやらで、先日チェロ弾きの友人に相談したところ、一人素晴らしいチェロ奏者を紹介して貰える事になった。お名前すら存じ上げないまったく未知のお方だが、ともあれ再来週にお会いできるという事で、いきなり心拍数が上がった気がする。それだけでモチーフが次々と湧いてくるんだ。ああ、やはり演奏家の姿が見えない状態でそうそう音符なんて書けるもんじゃないね。まだ引き受けて下さるのかも分からないが、それでもいきなり大いに前進した感じだ。獲らぬ狸の皮算用、うん、そいつが私の得意技さ。

 

 という訳でこの文章を書き終えて、パソコンの蓋をぱたんと閉じれば、あとはひたすら下書き用ノートに首を突っ込んで競走馬みたいに蹄鉄の音も高らかに書きまくるだけだ。うん、何だか胸を躍らせながら下書きを取るなんて久しぶりだね。

 

                                                                                                            2019. 12. 7.