通信27-24 もうすぐご飯が炊き上がりますよ

 数日前にべとべとなご飯を炊いた。いや、もちろん好き好んでそんなご飯を炊いた訳じゃあない。ともかくじっとりと湿気を含んだご飯が炊飯器の内釜に、これでもかというほどこびりついていた。更にそのまま保温にせず、夕方すっかり冷めきったご飯を茶碗に装おうと掬った杓文字の上には、到底ご飯とは思えない前衛芸術的な白い物体が。

 

 いや、まてよ、この状態、先月までは普通じゃなかったかい。そうさ、今月はちょいと良い米を使っていたんだが、数日前に以前使っていた最安値の米に戻したんだ。うちでは来客用と自分用に二種類の米を使っている。私が普段食べている米はいささか臭い。まさかお客様にまで臭い飯をお出しする訳にはいかないってんで、来客用に少し良い米を買い置きしているんだが、そうさ、たまたま自分用の米が切れたこのひと月ほど、自分の食事にもそのちょいと良い米を使っていたんだ。

 

 改めて比べてみると、ああ、随分と違うもんだね。うん、ではこの違いは一体どこから来るのだろうってんで、早速色々と調べてみた。なるほどご飯がべとべとになる原因は米が割れて中のでんぷん質が外に溶け出した結果だとものの本にあるじゃないか。そういえば廃棄米の一部は糊の原料として再利用すると聞いた事があるぞ。なるほど普段の私はご飯のフエキノリの中間みたいな物質を食べていたのか。

 

 そういえば文房具店に行くと、帽子を模った赤い蓋を頭に乗せた犬の形の容器に糊が一杯に詰めた物が売られているが、うん、こんな米をばかりを食べ続けていると、私の頭もそのうちあの犬みたいになるかもしれないぞ。あの犬、確かに笑顔だが目は随分と虚ろじゃないか。

 

 そんな与太話はともかく割れた米がべたべたの原因ならば、せめて炊飯の作業中、米を優しく扱えば少しは状態が良くなるのではないだろうか?そう思った私は、米を研がずに、そっと洗ってみるだけにした。そういえばどこかの米屋の若旦那が米の研ぎ方について解説している文章を読んだ事があったな。最近は精米の技術が進んでいるからそれほど神経質に米を研ぐ必要が無いとの事、しかも米糠には栄養があるから米を研ぎ過ぎないようにしようとその若旦那、読者に勧めていた。

 

 よし、ここはひとつ若旦那の言葉を信じようじゃないか。うん、何となく米屋の若旦那っていいね。何だか健康そうに日焼けして、朗らかで、「米」という一文字が白抜きされた紺色の前掛けをして、一仕事終えると腰に手を当てて美味そうにプラッシーを飲み干す。ああ、そんなイメージじゃないかね。そういえばプラッシーの宣伝文句に「プラッシーはお米屋さんに置いてあります」ってのがあったが、うううん、なかなか街中でお米屋さんを見る機会が減った昨今、プラッシーを見つけるのは大変そうだね。ところでプラッシーを置いておくといつの間にか瓶のそこに白い沈殿物が現れるんだが、小学校時代の同級生の森田君はあれって米の研ぎ汁じゃないのかなどとえげつない事を言っていた。

 

 という訳で、静かにゆっくりと洗った米を、念のためいささか少な目の水で炊いた、その結果がどうなったかというと、うん、今台所でふつふつと湯気を立てながらじっくりと形を成しているところさ。あと数分で炊き上がるが、ああ、しまった、おかずの事を何も考えてなかった。

 

                                                                                         2022/ 11/ 25.