通信21-36 最後のお勤めの準備をする

 ここ数日、肩にぶら下げた荷物に嫌な重みを感じていた。思えば三年前の秋、最初に感じた体の違和感、それは妙に荷物が重いという事だった。それから秋、冬と通して肩に下げた鞄は次第に重みを増し、とうとう歩けなくなった私は病院に駆け込み、いや、駆けるなんてとんでもない、楳図かずお先生描く呪いの蛇女みたいにずるずると這って行ったんだが、おっと、そのまま強制的に入院という事になってしまった。

 

 それ以来、肩の重みにはいささか神経質になっている。うん、ここ数日確かに荷物が重い、そう感じて憂鬱な気分に圧し潰されそうになっていた私は、鞄の奥に入っていた電子手帳を取り出そうとして、一週間ほど前に買ったまま忘れていたお徳用胡麻油の大瓶を鞄の底に見つけたんだ。くそ、重みの正体はこれだったのか。馬鹿な取り越し苦労と共に今年の秋は始まった。

 

 数日前、長らく連絡が途絶えていた昔の知人からフェイスブックの友人申請がきた。その申請と共に送られてきたメッセージ、「ちょっと訊きたい事がある」との事、はて、訊きたい事とは何だろうなどと思っていた矢先、その知人のフェイスブックへの投稿があり、そこには「座布団屋を始めた」というような意味の事が書かれていた。おお、もしかすると私に訊きたい事というのは「座布団はいらないか?」というようなものではないのだろうか。ううううん、以前のように積極的に仕事をしていた頃ならば、昔のよしみ、そうだね、自分の家で「一人笑点ごっこ」でもできるぐらいに沢山の座布団を買って差し上げたいところだが、残念、今の私は一枚の座布団を買うのにも窮するような暮らしをしているんだ。ああ、彼から座布団購入のリクエストがきたらどうしようかなどと頭を悩ませている今日この頃だ。

 

 今月末にコンサートを開く。作曲や指揮のコンサートではなく、サキソフォーンを使ったコンサートだ。ようやくそのコンサートのネタ、つまり譜面書きがすべて終わったところさ。五線紙の中に頭を突っ込んでうんすうふうすう鼻息荒し。今回はかなり丁寧に譜面を作った。いい加減な性格の私にしては、思い切り真面目に、真剣に、何故かって?うん、ひとまずそのコンサートをもって自主公演を終わりにしようと思っているからさ。何しろ心臓が壊れてしまったんだ。どうしても呼吸に違和感がある。お医者様によると完治する事はないらしい。ならばいっその事身を引いて、残り少ない時間を本当の自分の仕事だと思っている作曲に打ち込むべきじゃあないだろうか。

 

 思えばサキソフォーンを吹く事には、元々いささかの無理を感じていたんだ。いや、そもそも何故、そんな無謀な事を始めたんだろうか。ここ数日、干からびかけた自分の脳味噌から、色々と過去の記憶を引っぱり出しつつ、サキソフォーンという楽器について、いや、そもそも演奏するってのは一体どういう事なのだろうかと考えてみる事にした。最後のコンサート、その俎上に並べる曲の解説も兼ねて、これから数日間、色んな事を書き散らしてみようと思う。ようやく夏の暑さから、この頭も解放されたところだ。またまた駄法螺吹きの日々が始まるってなもんさ。

 

                                                                                                                   

f:id:seiranzan:20191006225310j:plain

f:id:seiranzan:20191006225341j:plain




 



2019, 10, 6,