通信28-8 旧友交歓

 昨夜は旧友と飲んだ。合うのは十数年振り、十数年前に一度顔を見たその前にあったのはさらに二十数年前だろうか。七夕様もびっくりするぐらいの御無沙汰ぶりだ。それでも一旦顔を合わせると、何の遠慮もなく、酒をぐいぐい飲み、好き勝手な事を喋りまくる、うん、私にとっては非常に有難い存在だ。もう半世紀も前の事、東京にいた私は学校も辞め、仕事でもトラブルを起こし、いや、そもそも東京にいる事すらできなくなった。何だか都落ちするような寂しい気持ちで、今住んでいるこの街へとやって来たんだ。

 

 そこで知り合った彼とは、どういう訳だか一緒に遊び回った。いうならば旅仲間、飲み仲間、温泉仲間、寿司仲間・・・おいおい、随分とだらしない仲間だねえ。うん、二十歳そこそこ、大人のとば口に立ったわれわれは、ともかく世の中のすべてが珍しく、何も怖れる事なく目の前の快楽にひたすら溺れ続けたんだ。

 

 そんな彼と久しぶりに会ったのは、もちろん自分の存在が危ういものになってきたからさ。長い事預かっていた大切な物をお返ししなければならないという事情もあった。要するにお別れ、そいつをきちんとしておきたかった人間の一人だったんだ。

 

 この数十年間の暮らしについて尋ねてみた。自家用車も、クーラーも買い、カラーテレビは買わなかったとの事だが、一応三種の神器のうち二つは揃えた訳だね、マンションも持ち、子供二人も無事大学を卒業させ、今は奥さんと二人で静かな余生を送っているとの事。おお、凄い。こんな知り合いがいたなんて驚きだ。思わず色紙にサインでも書いてもらいたいと思ったぐらいだ。

 

 彼と別れて一人夜道をふらつく私は、久々に無様な酔っ払いとなってしまった。いつもなら酒を飲みだすとある程度は酔い、それから先はいくら飲んでも醒め続けるという変な体になってしまっているが、昨日は酔ったピークで一人になり、そのまま酔いを抱え込んで街に放り出されたんだ。

 

 急に淋しくなり、知人に迷惑メールでもしようとスマホを取り出したが、一言打ったところで目がろくに見えない事に気づき断念。ああ、でもお別れってもんが寂しいものだと少し感じた自分の感性のまともさに、うん、ひとまず安堵したんだ。