通信27-7 布団の中でくるくると回り続けた

 童謡「おなかのへるうた」は「おなかと背中が、くっつくぞ」という文言で締められるが、昨日の私は「背中と布団がくっつくぞ」という状態で半日を過ごした。いつもの通りにスタジオに入って、二時間ほど原稿用紙に向かい、さらに二時間、能天気な音でラッパを吹き鳴らし・・・、あれれ、なんだか世の中がぐるぐると回り始めていないかい?うう、吐き気が、うん、胃袋ごとすべてを吐き出してしまいたいような吐き気に襲われ、トイレに駆け込むが何一つ吐き出すものもなく、そのまま天才バカボンに出てくるシノヤマキシン君よろしくくるくると回転しながら家のベッドに倒れ込んだんだ。ちなみにスタジオから自分の部屋まで徒歩で一分三十秒だ。

 

ああ、これほどに重力ってものを感じた事はないね。ともかく体が重い。そういえばシューベルトという作曲家は死の床で自分の体をとてつもなく重く感じ、このままではベッドが壊れてしまうんじゃないかと本気で心配したらしいが、その気持ちがちょいとだけわかる気がするじゃないか。最近、親切なご近所さんからお誕生日のお祝いにと枕を頂いたんだが、その枕はこれまで自分知らなかった柔らかさで、その枕に肥大したかのような私の頭がずぶずぶと沈み込んでゆくんだ。

 

それにしても何なんだ、この不安を呼び起こすような眩暈は。往来を歩いている時に突然感じる眩暈はおおいに不安を呼び起こすが、布団に入っている時にまで不安になるような眩暈って一体何なんだろうね。ともかくくるくるくるると自分が回っている。ああ、悪代官に帯を解かれる腰元はこんな気分なんだろうかと馬鹿な事を考えながらじっと眩暈に耐え続けた。

 

そういえば最古の物語ともいわれるインドの古典「マハーバーラタ」に、悪代官みたいなやつがヒロインを辱めようと、あれサリーとかいうんだっけ、インドの女性が体に巻き付けた布、そいつを引き剥がそうとする場面がある。それを天から見ていた神が、急いでヒロインを助けなければと用いた術が、ヒロインが纏っていたサリーを無限に長くするという馬鹿々々しいものだった。お陰で悪代官もヒロインも最後は目を回してばたりと倒れてしまう。神様ならもうちょっと効率のいい助け方を授けられないものかねえ。

 

悪夢に彩られた夜が明け、少し状態がよくなった私は啓蟄を迎えたカエルのごとく、ごそごそと布団を這い出し、パソコンに向かってこの馬鹿な文章を認めているのだが、ああ、油断は禁物、再び眩暈が蘇ってきたじゃないか。本当はあと300文字ほど書きたかったんだが、ううううん、残念、本日の与太話はこれにておしまい。

 

                                                                                                    2022/ 10/ 29.