通信24-17 新しい眼鏡の威力に溺れる

 いよいよ連作の最後の曲に入る。この一年、この連作ってやつに散々振り回されたんだ。途中、もうこの連作は完成しないんじゃないかと諦めかけたが、この秋になって突然、大幅にペースが上がってきた。いったいどうした事だって?うん、もちろん新しい眼鏡のせいだ。ちょいと前までは四線だか六線だかよく見えないまま、五線紙に音符をぐりぐりと書き込んでいた。ああ、これこそ盲目滅法ってやつさ。二十段の五線紙、気づかないまま一段間違えて書き続けていたなんて事もざらにあった。

 

 でもこの眼鏡、掛け始めが何とも不愉快なんだ。一旦、ぐにゃりと世界が歪み、しかも物々の輪郭が水彩画のように滲んで見える。二三分もすると馴染んでくるが、それでも何となく頭の奥がぐいぐいと締め付けられているってな感じになるんだ。ああ、確実に私は目ん玉とかいう体のパーツを使い潰そうとしているね。うん、でもいいさ、あと二曲ほど書けば人生のノルマは達成だ。

 

 眼鏡を外すとまたまた視界がぐにゃり、便所に向かうその足取りも何だかおかしいぞ、アホの坂田師匠のように一歩進む毎に足が交叉しているじゃないか、確かこれ千鳥足って言うんじゃなかったっけ、などとぶつぶつ呟きながら、便器の前に立つと、おっと、やじろべえみたいに体がぐらり、便所の壁に頭をごつうんとぶつけ、「年寄ってのは何だか面白いねえ、うふふ・・・などと一人で含み笑いをする。

 

 おいおい目の前のパソコンの画面、そいつが何やらちかちかしてきたぞ。そうさ、こんな馬鹿な文章なんか書いている暇はないんだ。さあ、連作最終章の下書きに入るんだ。という訳で、馬鹿話はここでお終い。

 

                                                                                                      2020. 10. 22.