2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

通信22-27 地下室の甘い誘惑

それが朝なのかも夕方なのかも分からないような暗い空に、冷たい雨が横殴りに降りつける。いきなり西の空が光り、あたりに雷鳴が響く。ああ、いいねえ、これこそが冬さ。人間の一人や二人、簡単に掻っ攫っていくぞとでも言いそうな、凶暴で不吉な季節、そい…

通信22-26 ジミヘンも真っ青?

ここ数日間、慣れないパソコンの作業に頭を突っ込んで過ごした。去年の夏頃に勉強を始めて、それからしばらく中断していたDTМとかいうやつ。要するにコンピューターを使って音源を作るってやつさ。年寄りには面倒臭い作業である上に、特に必要に迫られている…

通信22-25 知人に部屋探しをお願いする

年末からずっと続いていた酒をようやく抜いた。年末年始に様々な人からいただいた酒を、やっと飲み尽くしたんだ。特に年が明けてからはもう自分がどれぐらいの量の酒を飲んでいるのかも分からなかった。思えば若い頃はずっとだらしのない酒飲みとして過ごし…

通信22-24 風に運ばれる綿毛のように

階下の住人が引っ越していった。確か引っ越してきてまだ一年目ではなかっただろうか。それぐらいの期間を過ごしただけならさほど荷物もないのだろう、引っ越し屋のあんちゃんと、母親らしき女性があっという間に荷物を片付けてしまった。 これから暫くの間、…

通信22-23 街にサーカスがやって来る

近所にお住いのお姉さんから嬉しいお誘いをいただいた。お誘い?そうさ、サーカスに誘われたんだ。あの木下大サーカスだぜ。会社の忘年会のくじ引きで招待券を引き当てたんだって。「へええ、変な会社だねえ」などと呟きながらも嬉しくて「うふふふ」と笑み…

通信22-22 少しずつ仕事の勘が戻ってくる

年を越したあたりから、下書き用のノートに書きつけるメモの量がすっかり減ってしまった。うん、これは良い事なんだ。記憶の機能が上がってきているんだ。メモに頼らず頭の中で粘土を捏ねるように音の塊を捏ねてゆく。ああ、これこそが作曲の醍醐味さ。 自分…

通信22-21 懐かしい音に足を止める

日曜日の夜のスタジオは概ね静かだ。休日の夜、翌日の出勤の憂鬱さを頭に抱えながら練習をしようなどという好き者がそう沢山いるはずもなく、まあ当たり前といえばそうなのだろうが。夜の九時を過ぎるとほとんどの部屋の明かりが消え、淋しい気持ちを抱えな…

通信22-20 夜中に酔っぱらって人様の家でピアノを弾く

泥のような眠りから覚めると、おお、もうスタジオに入る時間じゃないか。絡まった衣服を剥ぎ取るように慌てて着替え、いつも着ている上着に腕を通そうとすると、あれ、何だか随分と重くないか?そのずしりと重さを感じる上着のポケットに手を突っ込んでみる…

通信22-19 最近、猫に絡まれるんだ

ようやく練習場が開いた。年末にあまりにテンションを上げ過ぎた私は、その高いテンションのまま年末年始の休みに呑み込まれてしまった。起きて、酒を飲んで、好き勝手な考えで頭を一杯に満たし、疲れると寝て、悪夢にうなされ、その悪夢から逃げ出すように…

通信22-18 無防備都市を観た

一昨日は久々に「無防備都市」を観た。1945年、まだまだ戦争の疵が生々しいイタリアで作られた映画さ。チネチッタという撮影スタジオは戦没者の死体置き場になっているから使えない。撮影はすべて実際の街中でなされている。フィルムも十分な量をそろえる事…

通信22-17 ウォークマンは眠り続ける

何だかあらゆる出来事を遠くに感じる。自分だけがひりひりとした気持ちを抱えて蚊帳の外にいるように感じるのは、うん、まだおぼろげなものでしかないが、確かに新しい作品を腹の中に抱え込んだからさ。まだ今は小さいが、これから途方もなく膨らんでゆく「…